みずがめ座
みずから尻に火をつける
自分の本気を試す
今週のみずがめ座は、『短夜や盗みて写す書三巻』(大須賀乙字)という句のごとし。あるいは、ここ一番の大勝負にみずからを追い込んでいくような星回り。
作者の置かれた状況を想像してみるに、どうしても読みたい本があって、それを読まないことには前に進めない。けれど、師の判断なのか運命のいたずらか、表立って閲覧は許可されてはいなかったのでしょう。
それが、思い余って勝手に家に持ち帰ってきてしまった。夏の夜は短いが、必死の覚悟で夜通しやれば「三巻」くらいは書き写せるはず。朝までに元の場所に戻しておけば、誰にも気付かれまい、と。
これは「書」のところを社外秘の資料などに色々と置き換えてみれば、そう珍しいことではないでしょう。いずれにせよ、夏の「短夜」というのは自分を追い込んで尻に火をつけるという意味では、むしろ格好の材料となることに気付かせてくれる一句とも言えるはず。翻って、掲句ほど背水の陣を敷いて何かに必死になった経験を、あなたが最後に経験したのはいつ頃でしたでしょうか?
6月18日にみずがめ座から数えて「自己投機」を意味する5番目のふたご座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、掲句のような試みに自分を賭けていくような瞬間がやってくるかも知れません。
誤解と史実
絶対に成就させたい願いごとが出てきたとき、人びとは実際どのように背水の陣を敷いてきたのでしょうか。一般的なイメージからすれば、戦時中の特攻隊しかり、あえて現在の収入に見合わないような高級車を買ったり、家賃の高い家に住んだり、みずから退路を断つことで、イチかバチかの大博打をしかけていくというものでしょう。
しかし、そもそもの史実を振り返るなら、漢軍を率いて趙軍を打ち破った韓信が実践したという「背水の陣」はこうしたギャンブルのようなものではありません。もちろん、決死の覚悟を持ってことにあたるという意味は含んでいるのですが、韓信は気合で難事を突破する猪突猛進の武将というより、むしろ策略に長けた軍略家でした。
だからこそ、「水を背にして陣を敷いてはいけない」という当時の兵本の基本をあえて無視して敵を油断させ、さらに小競り合いでもわざと負けてみせた上、軍需物資を戦場に打ち捨て慌てて逃げたふりまでして決定的な隙をつくり出し、少数で敵の大軍勢に耐えた末、最後には別動隊に敵の本拠地を襲わせて、見事自軍を勝利に導くことができたのです。
その意味では、掲句に垣間見える戦略も、単に無茶な勝負を挑めるかという話ではなく、あえて決まり事を破ったり、「書三巻」と目標を設定することで、何より自分を本気にさせることができた点こそが重要なのかもしれません。その意味で今週のみずがめ座もまた、できるだけ史実の意味あいに近い方の背水の陣をみずからに仕掛ていきたいところです。
みずがめ座の今週のキーワード
彼を知り己を知れば百戦危うからず