みずがめ座
ひとつの人生、ひとつの文化
咲いては散りゆく花のように
今週のみずがめ座は、『雛飾りつつふと命惜しきかな』(星野立子)という句のごとし。あるいは、みずからの日常に命の呼吸を息づかせていこうとするような星回り。
ひな人形を飾るのは、その家の女子の健康と幸せとを願うということであり、ひな人形は災厄を引き受けてくれる身代わりのような存在です。
掲句では、幼い頃から毎年飾りつづけてきたひな人形と向きあう中で、ふと自身の命運にかすかな翳(かげ)りを感じ取ったのかも知れません。事実、作者はその後「雛の日」の3月3日に亡くなっており、そこには運命の不思議ということを感じずにはいられません。
しかし、これはただ不吉な前兆を詠んで自己成就してみせた奇異なエピソードというより、心をこめて扱っていた人形を通して「ふと」いのちに触れる感覚が引き起こされたというごく自然な連続性がその根底にあって、だからこそ作者の「命が惜しい」という感情もまた読者によく伝ってくるのだと思います。
翻って、現代の私たちはこんな風に、日常のあいまに自分の命が惜しいとふと思いたてるような暮らしができているでしょうか。
27日にみずがめ座から数えて「創造性」を意味する5番目のふたご座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、花びらがごく自然に展開されていくような、無理のない、それでいてこの宇宙と調和した暮らしぶりということを改めて意識していきたいところです。
しるしをつける
人間は他の動物と比べても圧倒的に力も弱く、また体を覆う体毛もほとんどない、非常に脆くはかない存在ですが、そんな人間が外的から身を守るために必要としたのが“人工の皮膚”であり入れ墨/刺青でした。
日本では「アヤ」と呼ばれ、その最も単純な原型が「×」で、原始いくつかの部族社会では生まれた赤ん坊の額や胸に呪力としての×をしるし、それはやがて増殖して綾となり、文様となり、姿を変えて文字となっていきました。「×」が潜む文字には「産」や「彦」などがあり、「産」はムスと読んで、額に×をつけた魂が充実することをムスビと言いました。そしてやがて無事に成長すれば、男をムスコと言い、女をムスメと言い、それらが一緒になることを「結ばれる」と言ったのです。
そうして「文」が成長するとそれは「文化」となり、そこでアヤは運動会で行われる綱引きや、冠婚葬祭時に使われる水引、相撲の横綱の土俵入りなどへと転じてきました。その意味で、掲句の作者もまた疑いなく自身につけられたしるしを文化へと育て上げた人物のひとりだと言えるでしょう。今週のみずがめ座もまた、みずからの人生がどこまでそうした過程の中に位置づけられるかということを、考えてみるといいかも知れません。
みずがめ座の今週のキーワード
決意のしるしとしての依代