みずがめ座
寂しさと恋しさと涙もろさと
個体として存在継続していく上で
今週のみずがめ座は、根源的な情緒への遡及。あるいは、熟慮することと求愛することとをモットーにしていくような星回り。
哲学者の九鬼周造は『情緒の系図』において、人間がもつ情緒を「主観的感情」、「客観的感情」、そして「緊張と弛緩の方向性をもつ感情」の3つに分けました。
はじめの2つはともにその中身が快不快を基本とするのに対して、3つめのそれは「欲」や「驚き」などに代表されるように、不快ゆえの快というような不思議な状態にあること、そしてそれは突然の出来事による緊張からもたらされるものであると分析した上で、九鬼は最終的に2つの情緒を人間存在の根本であると結論づけています。
人間が個体として存在する限り、存在継続の「欲」と、個体性の「寂しさ」とを、根源的情緒としてもつことはおのずから明らかである。「欲」と「寂しさ」の在るところに個体が在ると云ってもよい。そうして「寂しさ」は一方に自己否定に於いて「哀れ」と「憐み(アガペ)」へ放散すると共に、他方に自己肯定を於いて「恋しさ(エロス)」の裏付けに集中する。
すなわち、緊張と弛緩の感情である「欲」と主観的感情である「寂しさ」とは、その裏面に客観的な感情すなわち外部の対象へと向かう感情としての「哀れ」や「憐み」、そして「恋しさ」を持つのであり、より簡潔に述べれば、人ひとりが存在するとき、そこには必ず「寂しさ」があり、その一方で「恋」を通して他者を求められずにはいられないのです。
2月20日にみずがめ座から数えて「実体」を意味する2番目のうお座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、みずからの抱えている「寂しさ」や「欲」を改めて探りあてていくことがテーマとなっていきそうです。
「涙ぐむ」
人間は他の霊長類や動物と比べても、自分では何もできない未熟な幼児期が異様に長いという特徴があります。そしてそれは単に期間として長いだけでなく、寿命の長さに対する割合から見ても、他のどんな生物よりも長いのです。
こうした発育過程の遅滞ないし遅延によって胎児や幼児の特徴が大人になっても保持される生物学的な現象は「ネオテニー(幼形成熟)」と呼ばれますが、アメリカの人類学者アシュレイ・モンターギュは人間は生物の中で最も劇的にネオテニー戦略を活用している生物であり、それは「子供に留まることが人間に文化の可能性をもたらす」のだとも述べています(『ネオテニー』)。
例えば、他のほ乳類のように母親の体毛にしがみついていることのできない人間の赤ん坊はその代わりに大声で泣いて注意を喚起します。それはほとんど生理的な働きなのですが、こうした「涙を流して泣く」という行為は人間の大人にも保持されており、こらえつつも「涙ぐむ」ことで深い共感を促す訳です。
つまり、「涙もろさ」というのは子供を延長させたネオテニーの特徴であり、それこそが人間が人間であろうとするための分母的な時空であり、「寂しさ」や「欲」の現われでもあるのではないでしょうか。今週のみずがめ座もまた、そうした“子ども性”をみずからの中に積極的に見出してみるべし。
みずがめ座の今週のキーワード
産まれ直し