みずがめ座
痕跡を求めて
そぐことに詩を感じる
今週のみずがめ座は、『春寒のケシゴム一行の字をそげり』(鷲巣繁男)という句のごとし。あるいは、自分の中でいつまでも残っていくであろうものとは何なのかということを、よくよく見定めていこうとするような星回り。
作者は傷病兵として入院中に俳句を始めた人で、掲句は句作し始めてからまだ間もない頃に詠まれた一句。
「春寒(しゅんかん)のケシゴム」でいったん意味としてもリズムにおいても切れていて、「一行の字をそげり」への展開がぎこちなく、やや唐突な印象を受ける。消しゴムはひやりとして冷たく、どこか手になじまない。
作者はここでおそらく、自分がノートに書きつけた「一行の字」、すなわち自作の俳句をそぐことに詩を感じている。ただ「消す」のではない。もっと深いところまで、その痕跡や記憶ごと削り取ってしまおうというのだ。
そこには当然、多くの人がふつうの暮らしを無惨にも戦争に奪われていった時代の精神性が反映されているだろう。しかし、いくらやっきになって消そうとしても、どうしたって消えないものもある。
それが何なのかということを、作者は俳句を通して確かめようとしていたのかも知れない。
2月14日にみずがめ座から数えて「社会に向いた顔」を意味する10番目のさそり座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、あらゆることが忘れ去られていく時代の中で、せめて最後まで自分の手元に残すべき事柄くらいはすぐさま思い当たっていきたいところ。
仮面と亀裂
日頃より懸命にこの世を生き、サラリーマン役であれ、上司役であれ、家事と仕事を両立するシングルマザー役であれ、演じている役柄に熱心に打ち込めば打ち込むほどに、「本当の自分は何者なのか?」といった問いは、どんどん忘れ去られていく。というより、そうした忘却こそがこの世でうまく生きていく上での大前提なのだ。
しかし時折、役柄上の自分は本当の自分自身ではないのだということを、ふと感じてしまうことがある。一度それが出てきてしまうと、目の前で展開されていく現実劇や演技においてNGを出したり、これまでスムーズに乗れていた脚本に乗れなくなったり、慣れ親しんだ日常舞台が、とたんに嘘っぽく、居心地の悪いものになっていく。
その意味で、今週のみずがめ座もまた、これまで当たり前だと思っていた日常にふとしたきっかけから亀裂が入り、そこからニョッキリと顔を出してくる違和感や不安が無視できなくなった時、どうするべきかが問われていく機会が出てくるはず。
それは一方で、いろいろなしがらみから離れ、‟素顔”の自分を模索していける自己解放のチャンスともなっていくだろう。
みずがめ座の今週のキーワード
鏡でじっと自分の顔を眺めてみること