みずがめ座
深い呼吸が戻ってくる感覚
不可欠なさりげなさ
今週のみずがめ座は、『パーカーの背中』という短編小説の一節のごとし。あるいは、精神がこれまでと異なる方向へ不意に向きを変えられていくような星回り。
フラナリー・オコナーの短編『パーカーの背中』は、頭の鈍い貧乏白人で身体の前面にびっしりと入れ墨を彫りこんでいるパーカーが、背中にキリストの入れ墨を入れる話なのですが、彼がそもそも入れ墨を自分に彫りこむようになったのは、彼が14歳の時に祭りで入れ墨男を見て感動した、というちょっとした偶然からでした。
パーカーはそれまで、なにかに感動したことは一度もなかった。その男を見るまでは、自分が生きているという事実を非凡なものにするなど、まったく考えたこともなかった。その時でさえ、じつは何も考えてはいなかったのだが、それ以来、奇妙な不安が胸に住みついた。とても優しく体の向きを変えられた盲目の少年が、行き着くところが変わってしまったのに気がつかないようなものだった。
最後の一文はまれに見る名文と言って差し支えないように思われますが、実際にある1人の人間がすっかり変わってしまう原因というのは、パーカー少年もそうであったように、意外とほんの些細なきっかけであることの方が多いのかもしれません。
あまり劇的なことやよくできたお膳立てというのは、それに直面する側も構えてしまう訳で、すんなり変わってしまうには、やはり「盲目の少年が」「優しく体の向きを変え」られた時のようなさりげない塩梅というものが不可欠であるように思います。
同様に、9月10日にみずがめ座から数えて「深い実感」を意味する2番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、後から振り返れば分岐点となるような新たな実感が不意に湧いてきやすいタイミングと言えるでしょう。
隙の開け
武道の世界などでよく「隙をつく」と言いますが、これは吐く息と吸う息のあいだは、意識のコントロールがきかず、その一瞬だけまったくの無防備となるため、できるだけこの呼吸の隙を小さくしていかねばならないということが背景にあります。
ただ、そうして隙をつかれまいとして息を殺し、あるいは息をつめていると、つねに身構えっぱなしの状態となっていく訳ですが、現代人は真剣勝負をする相手や対象を持たないままに、とにかく隙をなくそうなくそうとしている人が非常に多いように感じます。
おそらく、身の周りにある自然を過小評価していたり、その豊かなポテンシャルに気が付くことができなかったりするのも、そうしてガチガチになっているからなのではないでしょうか。身構えっぱなしのガチガチ状態のまま身体が疲れてくると、今度は呼吸から弾力が失われ、いざという時の集中力が落ちたり、感受性の繊細さが失われたり、いよいよ妄想ばかりで自然のことが分からなくなっていきます。
現代人はそんな風にガチガチの人工物に取りかこまれたリアリティを生きざるを得ない傾向にある訳ですが、その点今週のみずがめ座は、からだやこころにサッと隙が開けて、そこで自由で伸びやかな呼吸が戻ってくる感覚をおのずと求めていくことでしょう。
みずがめ座の今週のキーワード
力を抜いて視界をひらく