みずがめ座
無になる修行
※1月10日〜16日の占いは、諸事情により休載いたします。誠に申し訳ございません。次回は1月16日(日)午後10時に配信いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。
淡々と着実に
今週のみずがめ座は、「初空を絞りしやうな乳搾る」(鈴木牛後)という句のごとし。あるいは、無になれる作業を通じて何か新しいものの萌芽を見出していくような星回り。
「初空(はつそら)」とは元旦の空のこと。それは前日とはまるで違う空であり、新しい年になったばかりの、まだ手つかずの祝意に満ちています。
その空の下で、毎日毎日休むことなく牛という生き物と向かい合ってきた作者は、元旦から乳を搾っているわけです。それは酪農家にとっては当然のことかも知れませんが、「初空を絞る」という、どこか清らかでスケールの大きな飛躍的表現は常人からはまず出てこない着眼ないし発想でしょう。
その日が雪空だったのか青空だったのかは分かりませんが、あえてそこには触れず、作業中にふと感じられたことをそのまま言葉にしたことで、詩としての確固とした強度や鮮度が結晶化しているのです。
今の時代は、あの手この手で他の人からは出てこない唯一無二のアイデアを個性を、どうにかひねり出してやろうとみなが血眼になっているようなところがありますが、むしろ自分というものがなくなっていく瞬間や習慣のあるところから、本当の意味で価値があり、それでいて新しい表現というのは出てくるのかも知れません。
同様に、2022年1月3日にみずがめ座から数えて「喪失と想起」を意味する12番目の星座であるやぎ座で新月を迎えていく今週のあなたも、淡々と着実におのれを消していく作業に打ち込んでいきたいところです。
大渦に飲み込まれる船のごとく
無になるということは、時に個人ではどうすることもできない大きな流れにエイっと身をまかせるということでもありますが、その例として想起される作品にエドガー・A・ポーの「メエルシュトレエムに呑まれて」という短編小説があります。
これはノルウェー海岸のひとりの漁師が予測できなかった風に煽られて船もろともメエルシュトレエムと呼ばれる巨大な渦の中に巻き込まれ、奇蹟的に助かりはしたが、わずか数時間で髪が真っ白になり老人のような見た目になってしまったという海難話なのですが、その体験にはどうも恐怖だけでは割りきれない"何か”があったのです。
月の光は深い渦巻の底までも射しているようでした。しかしそれでも、そこのあらゆるものを立ちこめている濃い霧のために、なにもはっきりと見分けることができませんでした。その霧の上には、マホメット教徒が現世から永劫の国へゆく唯一の通路だという、あのせまいゆらゆらする橋のような、壮麗な虹がかかっていました。
船の高さの数十倍もの大渦に、木の葉のように揉みしだかれ飲み込まれていく船の姿が、ここではまるで深い深い羊水の海の底に潜っていく胎児のように思われるのと同時に、やはり底知れぬ恐怖や不安と同居して、時が歩みを停めてしまったかのような楽園の平安が温かく漂ってはいないでしょうか。
今週のみずがめ座もまた、ふとした拍子に巻き込まれた流れの中で、胎児の頃に見ていた夢を思い出していくかのように、忘れていた大切な感覚が蘇ってくるかも知れません。
みずがめ座の今週のキーワード
胎児のころの夢の見直し