みずがめ座
血がたぎる
ゴッサムシティみたいな世の中で
今週のみずがめ座は、「世を恋ふて人を怖るる夜寒哉」(村上鬼城)という句のごとし。あるいは、いつも以上に熱い血がその脈管の中を波打っていくような星回り。
耳の聞こえない聾者である作者が世間の人を「怖るる」のは、世間の人がみな聾ではないから。もし世間の人がみな聾であったなら、作者は大手を振って、誰にも遠慮することなく、馬鹿にされることもなく、大道を闊歩していたはずです。
しかし、現実には世間の人はたいていはよく聞こえる耳を持っており、そのため耳の遠い聾者や目の見えない盲者を下に見たり圧迫したりする獣性が備わっていて、作者はあたかも爪とか牙を持っている猛獣を怖れるのと同じ心持ちを抱いている。それで何かにつけて人の集まりに顔を出さずにいると、世間からはすぐに奇人変人の烙印を押されてしまう。
けれど、作者にはそうして世間の人を怖れる一方で、世間を恋慕う心持も普通の人間以上に持っているのであって、この熱情こそが時に自己に対する滑稽となり、また他の弱きものや劣っているもの、無視されているものへの溢れるような同情の原動力となっていったように思われるのです。
12月4日にみずがめ座から数えて「繋がり」を意味する11番目の星座であるいて座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、作者のように少なからず相矛盾した思いのなかで自分なりの繋がり方を模索していくことでしょう。
金子光晴「ぱんぱんの歌」
敗戦後、アメリカ兵相手の娼婦であったパンパンを歌った詩に次のようなものがあります。
ぱんぱんはそばの誰彼を
食つてしまひそうな欠伸(あくび)をする。
この欠伸ほどふかい穴を
日本では、みたことがない。
くだくだしい論議や、
戦争犯罪やリベラリズムまで、
この欠伸のなかへぶちこんでも
がさがさだ。まだがさがさだ。
日本の詩歌は伝統的に喜怒哀楽の「哀」の表現に傾きがちで、その中にあって特に弱く、アキレス腱でもあるのが「怒」であり、その意味でこの詩に限らず作るものがことごとく「怒」に満ちているこの詩人はとても稀有な存在と言えます。
今の社会もそうですが、世の中にさまざまな怒りは充満していても、それを詩という形にまで鍛え上げ、結晶化できた人は本当に数が少ないのです。それは日本という国が、他国による侵略の犠牲被害にあったことが極めて少ないことも関係しているかも知れません。
その意味で今週のみずがめ座もまた、きちんと腹を立てるべきことを意識して言葉にしていくことが、繋がりの未来を切り開いていくのだと思い直してみるといいでしょう。
みずがめ座の今週のキーワード
「愛/哀」よりもなお熱い「怒」