みずがめ座
アイスコーヒーと水晶幻想
相反するものを同居させて
今週のみずがめ座は、「アイスコーヒー空青きまま夜に入る」(藤田哲史)という句のごとし。あるいは、自分の感覚を信じてそれを深めていこうとするような星回り。
公園かカフェのテラス席にいるのでしょうか。アイスコーヒーの水面に空が映った。けれど、青空はコーヒーに映ればどこか深い青をたたえた夜空となる。
内容としては、ただそれだけのことなのですが、どこか物憂さを感じさせます。グラスの中の氷が音を立てて動くときの、その様子までがどこか物思いに耽っている作者の背中を連想させるのです。どうしてそう感じさせるのか。
思うに、それは作者が過剰な抒情性をたたえた俳人であるからであり、それをせき止めるための文法を正確に駆使しているからでしょう。
ちょうど、夜空と青空という相反するものを同居させているこの句のアイスコーヒーのように。
6月2日にみずがめ座から数えて「手ごたえ」を意味する2番目のうお座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、静かな確信を少しずつでもたぐり寄せていくことができるかも知れません。
異質文明を夢みて
時代を超越した独自の感覚を貫いていった人間として、たとえば稲垣足穂がいます。彼は「水晶物語」の中で、「何にしても人間よりは樹木の方が偉い。樹木よりも鉱物、それも水晶のようなものがいっそう偉いのだ。人間も早く鉱物のようになってしまったらよかろう」と書いていました。
そういう眼で人間を眺めてみると、確かにごく稀に鉱物や水晶さながらにドキリとするような妖しい輝きを放つ人間が存在しているような気がします。
そうした鉱物人間は、道端に転がっているただの石ころ共とは違って、その上に全く異質の文明の可能性を夢みたり、信じさせるだけの何とも言えない磁力があるのです(足穂自身もまたそういう人でした)。
そして、そんな磁場に思わずまなざしが吸い込まれていくとき、人間の最も深い感情である憧れの想いがそっと引き出されていくのです。おそらく、そんな時の人の目は、闇夜に一夜の夢を浮かばせるサーチライトの綾を織り出さんと、ピカピカに発光しているのではないでしょうか。
「鉱物に較べると、大方の生物はまるで泡だ、と私は思っているのです。」
今週のみずがめ座もまた、できればこれくらい断言できるだけの確信を胸に抱いていきたいところです。
今週のキーワード
普遍的な美しさ