みずがめ座
死角から獣きたれり
根源的存在
今週のみずがめ座は、「恋猫の恋する猫で押し通す」(永田耕衣)という句のごとし。あるいは、他ならぬ自分自身に丁寧に触れ、感じていこうとするような星回り。
猫にはさまざまな顔がありますが、掲句では「恋する猫」が季語として使われています。
身体の要求とは別のところで動く人間にとって、いわば決められた発情期はありませんが、逆に身体の要求にまっすぐな猫にとって春はまさに恋の季節。夜ごと雄猫が雌をもとめて一心不乱に鳴き声をあげる光景が見られます。
作者はおそらく、そうして種としての習性や、おのれの性(さが)にどこまでも素直な猫にひとりの人間として憧れを抱いたのでしょう。「押し通す」のは猫ではなく人間ですが、自分の性(さが)を素直に生きようとすれば、人間社会では「押し通す」だけの強さが求められるのだという自嘲の響きも感じられるはず。しかし同時に、それこそが人間なのだという表明でもあるのでしょう。
作者は“根源俳句”を標榜し、存在(生命)の根源を追求し、それに触れていくことを目指したとされていますが、そうした根源精神について、作者は日本画家の小林古径の「いい絵というものは柿一つ描いてあっても宇宙を感じさせますね」という言葉を引いて語っています。
13日にみずがめ座から数えて「習性、才能、資産」を意味する2番目のうお座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、天から与えられた恵みとしてのおのれの性(さが)というものを受け入れて、素直に従っていくことがテーマとなっていきそうです。
「獣」としての恋猫
飼い慣らされ、躾けられ、すっかり人間の秩序に組み込まれてしまったペットとは異なり、不意に街に現れた恋猫は異物どころか、秩序そのものを脅かす「獣」となります。
これは例えば、本能に深く根差した「食欲」を見ても、文明社会には必ず食事の行儀作法というものがあり、みずからの獣性を上手に隠蔽できない者には「醜」の烙印が押され、社会からつまはじきにされる。
しかし、秩序を乱すものたちへ向けられる監視の目にも、必ず死角が存在する訳で、人間の獣性というものもまた、そうした秩序を逸脱したところにわだかまる領域に生息し続け、どんな世になったとしても彼らが完全に息絶えることはあり得えません。
酩酊、乱舞、戦慄、幻覚、狂気―。
今週のみずがめ座は、日を追うごとにそれらの気配が秩序なす社会の拘束を突き破って日常世界へ侵犯してくるのを感じていくことでしょう。
今週のキーワード
まつろわぬ神