みずがめ座
美学は醜学
スタイルの創り方について
今週のみずがめ座は、「まつしろに花のごとくに蛆湧ける」(高柳克弘)という句のごとし。あるいは、美醜みなひっくるめて格好をつけていくような星回り。
「蛆(うじ)」はハエの幼虫で夏の季語。一般には、餌となる生ごみや動物の糞、死体などに発生するので嫌われますが、有機物を分解し土に還してくれる貴重な存在でもあります。
これは野見山朱鳥の「ふとわれの死骸に蛆のたかる見ゆ」を踏まえた句であるように思いますが、掲句の場合、より見ているものが幻視体験であることが強調され、本当だったら不潔なもの・気持ち悪いものを、表現の仕方ひとつでとてもスタイリッシュにしています。
こういう句にあたると、かっこよさというのは、欠如や歪みや過剰さなどの醜さをうまく隠して見栄えのよいところだけ見せるのではなく、それらと徹底的に向き合って別のベクトルへと転換させることによっても成立するのだ、ということがよく分かるのではないでしょうか。
6月21日にみずがめ座から数えて「生き方の美学」を意味する6番目のかに座の初めで、日食と新月を迎えていく今のあなたもまた、自分の醜さにどう落とし前をつけていくことができるかが大きなテーマとなっていきそうです。
深淵から生を見つめる
ここで思い出されるのは、孤独な無国籍者(自称「穴居人)として、人間の業を凝視し続けた哲学者エミール・シオランです。彼は『悪しき造物主』というエッセイ集の「扼殺(やくさつ)された思い」という章の中で、生まれついての自己の限界について次のように述べています。
「横になり、目を閉じる。すると突然、ひとつの深淵が口を開く。それはさながら一個の井戸である」
心の中に潜む、憎しみや残酷さ、依存心。そういうものについて私たちが「見せかけ」や「にせもの」などと呼ぶことがないように、目を向ければ向ける程、じつに深い根をもって私たちの中に巣食っていることが分かってきます。
もしあなたがいま何かしら悩みや負担を抱えていて、自らを救済したいと思っているのなら、改めて自己の限界を立ち戻らなければなりません。彼は先の一言の後にこう続けます。
「その中に引きずり込まれて、私は深遠に生をうけた者のひとりとなり、こうして、はからずもおのが仕事を、いや使命さえも見出すのだ。」
ここには今のみずがめ座への大きなヒントがあるように思います。今週はいたずらに先へ先へと先を急ぐのではなく、すこし自分をカームダウンさせて、その内奥でうごめくものを改めて見つめ直していくといいでしょう
今週のキーワード
穴居人(けっきょにん)=原始人に立ち返る