みずがめ座
あまりに人間的
遊び心と潤滑油
今週のみずがめ座は、「おもしろかつたねと浮輪より出る空気」(正木ゆう子)という句のごとし。あるいは、日常の中に遊びが分けはいり、遊びの中に日常が残っていくような星回り。
海水浴なのか、プールなのか、また親子なのか恋人なのか。詳細はよく分からないけれど、2人の会話になんと浮き輪が加わってきた。そんな発想がおもしろい一句。
そもそも、浮き輪は遊泳の際の安全装置としては不十分で、ただのおもちゃです。したがって、本質的には生活に不要な余剰物であり、生活必需品とも見なされません。
けれど、そうだからこそ、人間の会話の中にするりと加わってこれるだけの遊び心が宿るのでないでしょうか。
普段の日常において、別にやらなくてもいいことを、あえてやってみることで、思いがけず気持ちが潤ったり、楽しい時間を過ごせたりといったことはよくあることです。
もしかすると、PCや手帳のかわりに、浮き輪を手にして職場に入っていけば、溜まったメールの山も、ザァーッという音とともに浜へ打ち寄せる波のように見えてくるかもしれない。
今週のみずがめ座ならば、それくらいの心持ちで過ごしてもきっと許されるはず。
アーレントの「活動」
ある意味で今週のみずがめ座のテーマは、自らの価値観にゆらぎをつくりだすこととも言えますが、例えば現代のもっとも優れた政治思想家の1人とされるハンナ・アーレントは、人間の行為を「労働・仕事・活動」の3つに分けて説明しています。
彼女によれば、「労働」とはあくまで人間の肉体的な生命を維持するための行為であり、それに対して「仕事」とは、人間の個別的生命をこえて存続していく製作物をつくる行為。
そして「活動」は、人と人とのあいだで行われる行為であり、それはさまざまな感覚知覚を統合し、誰かと共有できるような現実感を作り出していく共通感覚の存在が前提になっている。
さらに、近代社会においては、これら物質的な「労働」と文明的な「仕事」が重要視され、人間的な「活動」は貶められていると言うのです。
先程の「浮輪との会話体験」もまた、アーレント風にいえば最後の「活動」にあたるものでしょう。彼女はさらにそんな「活動」に欠かせない「共通感覚」について次のような仕方で言及しています。
「共通感覚を奪われた人間とは、所詮、推理することのできる、結果を計算することのできる動物以上のものではない」
現代人は効率性や合理性を追求していったことで、かえって生きた自然、生きた身体、生きた人間とつながる術を見失ってしまいました。
今週のあなたにはそんな現代人が忘れてしまった感覚を、誰かと共に取り戻していくことをぜひ大切にしてほしいと思います。
今週のキーワード
ハンナ・アーレント『人間の条件』