
うお座
ポルックスとアンネと私

キティーへの手紙
今週のうお座は、日記を通して深まっていったアンネのごとし。あるいは、どこか滞ってしまっていた自己内対話を促し、深めていこうとするような星回り。
ギリシャ神話に登場するカストルとポルックスという兄弟は、双子ながら兄のカストルは普通の人間であったのに対し、弟のポルックスは大神ゼウスの血を引き不死の身でした。
2人は武勇の誉れ高い英雄でしたが、ある時戦いで兄のカストルだけ死んでしまいます。その時、ポルックスは自分だけが生き続けることを拒み、ゼウスがその願いを受け入れたため、以後2人は1日は地下で過ごし、次の1日はともに天上の宮殿で神々とともに暮らすことが許されたそうです。
この神話は、ある意味で、人間の有限性と無限性の矛盾や、リアリティの重層性への気付きを表しているのだとも解釈できますが、そうした深い気づきだったり、きっかけを得て物事への成熟した関わり方ができるようになるということは、地上に生きる私たちの人生においてもしばしば起こりえることなのではないでしょうか。
例えば、『アンネの日記』のアンネがそうでした。1942年6月、アンネは13歳の誕生日に、父からサイン帳をプレゼントされました。彼女はそこに日記を書くことを決め、日記の体裁は、心の支えとなる架空の人物「キティー」に送る手紙という形をとったのです。
そしてその翌月には、一家はユダヤ人狩りから逃れるべく、知人らと一緒に「隠れ家」で生活を始めます。以後、アンネは約2年間にわたって学校の先生や友人との出来事、激しさを増すユダヤ人への差別や隠れ家での生活に関する話、戦争と平和に対しての思いを書き綴りました。その間、隠れ家には泥棒が入り、食糧事情も劣悪化するなど、アンネを取り巻く環境は悪化する一方でしたが、そんな過酷な環境下でもアンネはひたむきに日記を綴ったのです。日記を始めて約2年後の1944年7月15日の記述を引用してみましょう。
じっさい自分でも不思議なのは、わたしがいまだに理想のすべてを捨て去ってはいないという事実です。(中略)いまでも信じているからです。———たとえいやなことばかりでも、人間の本性はやっぱり善なのだということを。
4月5日にうお座から数えて「創造性」を意味する5番目のかに座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、もう1人の自分との内なる対話をここぞとばかりに試みていくべし。
自分のなかの「天」を広げる
英語のことわざに「天は自ら助くる者を助く」という言葉がありますが、この場合の「天」とは、“自分の中の何か得体の知れないもの”と言い換えられるでしょう。
それと対極的なのは、例えば友だちの反応や、世間がどう思うかどうかで決断を成そうとする態度です。そういう時というのは大抵が、自分を世界の端っこで縮こまって生きているものとして感じてしまうもの。無意識のうちに自分はきっと不幸なはず、幸福にはなれない、というイメージを浮かべてしまっている訳です。
ポルックスもアンネも、言ってみればそうした状況のなかで、カストルやキティ―を介して自身のなかに潜んでいる「天」を見出し、しずかに向き合いつつ、その実感を深めていったのです。
同様に、今週のうお座のテーマもまた、“自分の中の得体の知れないもの”としての「天」をひとり静かに広げていくことにあるのだと言えるかも知れません。
うお座の今週のキーワード
シンギングボウルを鳴らすように





