
かに座
「伝える」から「伝わる」へ

うまいこと言おうとするほど心は通じない
今週のかに座は、「ゼウクシスとパラシオスの腕競べ」の寓話のごとし。あるいは、話のコンテンツや発信内容より「何を念じているか」を大切にしていこうとするような星回り。
古代ローマの大プリニウスの『博物誌』に、だまし絵にまつわるこんなお話があります。いわく、昔ゼウクシスとパラシオスという2人の画家がいた。2人のうち、どちらがより本物そっくりに絵を描けるか、その技術を競うことになった。まずゼウクシスがブドウを描くと、あまりに写実的だったため、鳥が飛んできて絵のブドウをついばもうとしたほどだった。出来に満足したゼウクシスは、勢いこんで「さあ、君の番だ」と振り返った。すると、パラシオスが壁に描いた絵には覆いがかかっていた。ゼウクシスは「その覆いをはやく取りたまえ」とせかした。その瞬間、勝負がついた。なぜならパラシオスが描いたのは壁の上にかかった「覆いの絵」だったから。
この寓話の教訓について、ジャック・ラカンは「パラシオスの例が明らかにしていることは、人間を騙そうとするなら、示されるべきものは覆いとしての絵画、つまりその向こう側を見させるような何かでなくてはならない」のだと述べています(『ジャック・ラカン 精神分析の四基本概念』小出浩之訳)。
「人を騙そうとするなら」という仮定は、今週のかに座の場合、「人に確実にメッセージを届けようとするなら」と言い換えてもいいかもしれません。そうなると、「覆いの絵」とは、まずうっかり聞き落されることのないようなメッセージであり、その先には常に「向こう側」、すなわち言外の真意がある訳です。それは一体どんなものなのか。
おそらく「オレうまいこと言ってるだろ」的なネタムーブ=「ブドウの絵」がしばしばスルーされたり不興を買ってしまうのに対し、直感的に‟自分宛て”のメッセージであると確信させられるような「呼びかけ」であるほど確実に人に受け入れられやすくなるはず。そして、その根底にあるのは母から子への「あなたがいて私は嬉しい」という語りかけであり、それに対し子が同じメタ・メッセージを返すという鏡像的なメッセージのやりとりに他ならないのではないでしょうか。
4月5日に自分自身の星座であるかに座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、誰と対せど何と向かえど、これまでどこか無意識のうちに自分が発していたメタ・メッセージの中身について、改めて自覚的になる瞬間が訪れていきやすいでしょう。
「「伝える」言葉を「伝わる」気持ちが支える」
精神科医の中井久夫は、『「伝える」ことと「伝わる」こと』というエッセイのなかで、癌と知った時から急に癌患者らしくなる人をあまりにたくさん見てきた経験から「病気の告知には「同時に何を伝えるか」「同時に何が伝わるか」が重要な意味を持つ」と述べつつ、ある宗教学者の事例を引いています。
いわく、ある日を境に周囲の人との間に目に見えない「ガラスの壁」ができたので、ははあ、自分は癌なんだなとわかったのだそうです。周囲が急にやさしくなり、意味のない美しい言葉を語りかけてくるようになったと。これが、癌患者に対して「伝えまい」とする周囲の努力の結果、コミュニケーションを絶たれたことが自然に「伝わる」ケースの典型なのだそう。
逆に、きびきびと働いている看護師の姿は、他の患者に生きる希望を自然に「伝える」のだそうで、患者はいざという時には自分もああしてもらえるのだと安心感を持つのだと。
今週のかに座もまた、ただ自然に「伝わる」に任せるのでなく、中井の言葉のように何を「伝える」にせよ、きちんと「伝わる」気持ちに責任を持っていきたいところ。
かに座の今週のキーワード
「あなたがいて私は嬉しい」





