おとめ座
リズムで耕す
普通の体験ほどよく耕していくこと
今週のおとめ座は、ジョン・アダムズの仕事術のごとし。あるいは、計画性と無計画性のちょうどいい塩梅を自分なりに探っていこうとするような星回り。
一般的に創造的な仕事をするには、ユニークな方法論や特別な手続きが必要であるというイメージが強いですが、果たして本当にそうなのでしょうか。
例えば、『ミニマル・ミュージック』を提唱する現代作曲家のひとりジョン・アダムズは、2010年に行われたインタビューの中で「毎日午前9時から午後4時か5時くらいまで仕事をする」が「僕の経験からいうと、本当に創造的な人々の仕事の習慣はきわめて平凡で、とくにおもしろいところはない」のだと述べたうえで、「基本的に、なんでも規則正しくやれば、創作上の壁にぶちあたったり、ひどいスランプに陥ったりすることはないと思っている」と断言しています(『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』)。
とはいえ、何かと誘惑や邪魔の入る日常生活において何かを「規則正しく」やり続けるということほど難しいことはないはず。そして難しいことをこなせるようになるためには多大な手間と訓練が必要ですが、多くの場合、私たちは病気や事故などに直面するまで、日常生活を送るのに特別な訓練が必要であるとは考えません。それでも、そうした事情について精神科医の中井久夫は次のように述べています。
異常体験というものは実はかなり類型的なものであり、そうでない体験のほうがはるかに豊富であり、分化しており、多様である。(『世に棲む患者』)
ここでいう「そうでない体験」こそ、睡眠や食事、仕事や休息、運動などによって構成された日常生活である訳ですが、アダムズは規則正しいスケジュールを守ることの大切さを述べる一方で、「必要以上に計画的にしないように」とも忠告しており、ときには「あきれるほど無責任な状態にいる必要」もあるのだとも述べていますが、おそらくこの計画性と無計画性、必然性と偶然性の絶妙な塩梅こそが、創造性の秘密なのではないでしょうか。
11月20日におとめ座から数えて「儀式化」を意味する6番目のみずがめ座に冥王星が移っていく今週のあなたもまた、ごく普通の体験をこそ規則正しく耕しつつも、ときに気ままに発展させていくことを大切にしていきたいところです。
リズムを刻むということ
別の例を挙げると、かの文豪ディケンズは、日々の日課として、また創作のヒントを得るため、あてどない散歩にいそしんだと言われています。
散歩やぶらつきなどというと、仕事の生産性に直接関係しない無為な時間と思われるかも知れませんが、手も足も自由な暇な時間や、意識の空白というのは、まさにアダムズのいう「あきれるほど無責任な状態」に他ならず、日常から1歩離れて生の全体を見渡すためにも欠かせない体験だったのではないでしょうか。
例えば、俳句の5・7・5というリズムも、古代の舞踏のリズムや、海洋民がオールを漕いでいたときのリズムにその起源があるとも言われていますが、いずれにせよ座ったまま、足を窮屈にしている状況からは、伸びやかなリズムというのは決して生まれてきません。じっとしているだけだと、どうしても言葉が煮詰まってきて、スムーズに流れなくなる。そして何より、リズムから外れた不要なものが分からなくなってしまうのです。
その意味で、今週のおとめ座もまた、歩くリズムや、踊るリズム、オールのリズムなど、自分に合ったリズムを改めて身体に刻んでみることで、要不要の境界線を探ってみるといいでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
「本当に創造的な人々の仕事の習慣はきわめて平凡で、とくにおもしろいところはない」