おとめ座
路傍の石となる
単なる石っころか、憩いの場か
今週のおとめ座は、『絶えず人いこふ夏野の石一つ』(正岡子規)という句のごとし。すなわち、人が憩い、留まっていくほど広さをもっていこうとするような星回り。
万緑の中の一石に着目した一句。夏野の途中にあって、印象的な白一点の石の存在を目の当たりにした旅人は、必ずそこに腰かけて休んでいったのでしょう。
そうして都合のよい場所にあって、旅人たちは絶えずそれを繰り返す訳ですが、来ては去ってゆく旅人の存在はまるで時間の流れのようであり、それとは対比的に、夏野の石は永遠の象徴のようでもあります。
作者は36歳で世を去っていますが、俳句のみにとどまらず短歌においても、病床の生活と若さにも関わらず歴史を変えるほどの革新的な事業を成し遂げています。その意味で、文芸に親しんだ多くの同時代や後世の人びとにとって、作者の存在自体が「夏野の石」のようであったとも言えるのではないでしょうか。
30日におとめ座から数えて「行き着く先」を意味する10番目のふたご座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、どんな野に存在する石であるべきか、改めて自身に重ねて考えてみるといいでしょう。
派手に死なずに地道に生き続けること
哲学界のアイドルであり、“真の賢者”の地位に長らく担ぎあげられてきたソクラテスは、挑発的な言動を徹底して繰り返し、何も書き残さないまま自身の美学に殉じて死刑宣告を受け入れて死んでいきました。
確かにそれはかっこいいし、伝説的な存在として歴史に名を刻んだ訳ですが、しかし弟子のプラトンはそんなイキった師の最期を見て考えるところがあったのでしょう。ソクラテスが殺されないような世界を作らなければならないと決心し、彼はアカデメイアという学校を作りました。
この学校作りのどこが画期的だったかと言うと、それまでもピタゴラス派が学校のような組織を作ってはいたのですが、各部屋にピタゴラスの肖像を飾って、基本的にはピタゴラスの言ったことから外れたことは言ってはいけないということになっていたのです。
その点、アカデメイアの中にはプラトンの考えに批判的な反プラトン派もおり、学頭が2代目、3代目になると早速プラトンを批判することで多様性を許容し、「カリスマ的な権威」であるとか「絶対的な師弟関係」を積極的に相対化していったのであり、それもまた旅人が憩う「夏野の石」の理想的な在り方のひとつと言えるのではないでしょうか。
その意味で、今週のおとめ座もまた、たとえ地味であっても、後を通る人が通りやすいような仕方で、みずからの活動を地ならししていくことを意識していきたいところです。
おとめ座の今週のキーワード
石の落ち着き