おうし座
小さな町を大きくとらえる
大地が人知れず見ている夢
今週のおうし座は、「コンコードの町を広く旅した」ソローのごとし。あるいは、「場の哲学」をみずから実践していこうとするような星回り。
ともに詩人であり、それぞれ屋久島とシエラネバダの山中に暮らす山尾三省とゲーリー・スナイダーは、大地とのつながりを喪失した現代人の生活とは正反対の、ひとつの場所に住んで環境という視点からみずからを再教育していく生き方を「再定住」と呼びました。
そして、人間が自分が暮らす土地の気候や風土、動植物などに関する知識を深めつつ、生態系に対する人間側の責任を確認することの重要性について、次のように語っています。
スナイダー そこに自分の場所を見つけないと、心理的にそこにはいないんですね。そこかよそにいるんです。それはまた、自分とはいったい何者かという定義にも関わってくる。ですから、これはとても精神的な問題ですね。
(…)
山尾 僕の言葉で言うならば、ひとつの場所が持っている豊かさというものは自分の一生を捧げつくしても探しきれないものだと思うんです。自分の一生や二生を捧げても探しきれない。
スナイダー(…)たとえばソローは、「私はコンコードの町を広く旅した」と言っているんです。つまりコンコードは小さな町だけれど、ソローはひじょうに大きくとらえて、そこを何度も何度も旅してきた、ということなんだね。
山尾 つまりソローはその場所を深く、どこまでもよく知ろうとしたということですね。
スナイダー そうです。彼が言いたかったことはまた、そこは面積の上では小さいけれど、彼はその場所を充分にそして深く知ろうとしたということなんだね。
山尾 それがディープ・エコロジーですね。また、場の哲学というものです。(『聖なる地球のつどいかな』)
山尾はこうした意味での「場」をめぐって、「大地が人知れず見ている夢がある」という言い方でも表現しているのですが、5月15日におうし座から数えて「ホーム」を意味する4番目のしし座で上弦の月を迎える今週のあなたもまた、自身の生活を支えている大地が人知れず見ている夢におのずとアクセスしていくことになるでしょう。
特別な場所を大切にしよう
アイスランド語には「ラース」という特別な言葉があります。これはその地下に妖精たちの棲家があると伝えられてきた、こんもりと盛り上がったり逆にへこんでいたりする地面の特別な場所を指す語で、その上に人間が家を建てるなど言語道断とされたのだそうです。
そこは自然の不可侵の領域であり、地下と地上、すなわち、此岸と彼岸とをつなぐ特別な出入り口と考えられていたんですね。これは日本の神社の鎮守の森などで神域とされる場所に近いですが、そうした人間には計り知れない領域が日常世界と地続きに存在しているという感覚は、現代社会では既に喪われつつあるのではないでしょうか。
少なくとも古代ケルト人たちは、そうした場所は人の手でつくられたものではなく、妖精たちの仕業であると考えていたか、あえて世界にそういう余地を残しておいた訳です。これは21世紀に入って日本でも人口に膾炙(かいしゃ)してきた“パワースポット”という言葉とも異なる概念で、通常の日常意識ではまず捉えることさえできないような霊的世界が、土地の形になって顕現しているという世界観がその背景にある訳です。
今週のおうし座もまた、資本主義や現代文明から喪われつつあるこうした土地の感覚を、改めて思い出してみるといいでしょう。
おうし座の今週のキーワード
妖精たちの仕業かな