おうし座
こんにちは
柿はどこからやってきた
今週のおうし座は、『門のうち柿熟しつつ家庇(いえびさし)』(長谷川零余子)という句のごとし。あるいは、目を向けるべき“中心”を得ていくような星回り。
門のうちに柿がなっていて熟しており、そこに家の庇(ひさし)が突き出ているという、まことにありふれた光景を詠んだ一句。
ただ、「柿熟しつつ」と書いたことで、日を重ねるにしたがって柿がどんどん熟していくという時間の流れが生じると同時に、その柿に生命が宿って、重みが加わって、おのずから景色の中心になって、門と庇とはさながら柿の左右に控える従士のようになっていく。つまり、ささやかながらもそこに物語が生まれていく訳です。
絵でいえば、濃い橙色に染まった柿の実は、まさにこれから地平線に沈んでいく夕日のような存在感を放つよう描かれるのに対し、前後の門と庇は黒色で描かれる建物や物陰の感じでしょうか。
そういう“感じ”をわずか数語で語って見せているところに、掲句の一見平凡なようで陳腐になりさがらない力強さがあって、軽々と全体の光景を釣りあげているような心持ちさえする。こういう句を、中心を得た叙法と言うのでしょう。
11月8日におうし座から数えて「対象/焦点」を意味する7番目のさそり座後半に太陽が入り立冬を迎えていく今週のあなたもまた、自身の生活の中心がどこへと向けられるべきなのか、改めてまなざしをただしてみるべし。
「ああ、よかった。ペットボトルのお茶を忘れてきたから、おにぎりがホカホカだわ」
これは郡司ペギオ幸夫『やってくる』で紹介されていた、著者自身が体験したエピソードに出てきた一言です。
著者はその日、都内からほど遠い場所に出かけた際、昼食用にとおにぎり弁当とペットボトルのお茶を買って列車に飛び乗ったところ、せっかく買ったお茶をホームに置いてきてしまったことに気づいたのだそう。
自責の念にかられながらも、今さらどうしようもないと気持ちを落ちつけ、座席に座っておにぎりを食べることに。ところが、おにぎりを頬張った瞬間、著者の頭に先のような思考が浮かんだ。もちろん、お茶を忘れてきたことと、おにぎりがホカホカであることには、何の因果関係もありません。著者自身もそれを結びつけることがおかしいと分かっている。にも関わらず、おかしいという理性の働きとは無関係に、そんな思考がやってきた訳です。
そんな風に、私たちには時おり望んだわけでもない意味をつかんでしまう瞬間があって、それがいつの間にか生活の中心に鎮座していたりする。今週のおうし座もまた、そんな因果関係の枠組みをひょいと飛び越えて外部からやってくる意味の到来を経験していくことができるかも知れません。
おうし座の今週のキーワード
自分でも戸惑ってしまうような確信