おうし座
触れるべきもの
「ばった」はいずこ?
今週のおうし座は、『ばつた見てばつたのゐない地面見て』(鈴木牛後)という句のごとし。あるいは、とらえ損ねている何かの存在にハッと気付いていくような星回り。
大人になって家と会社を往復する生活を送っているとなかなか虫と直接触れあう機会はグッと減ってしまいましたが、昔から稲作を中心に生活してきた日本においては、稲につく虫も秋の風物詩でした。
掲句にもやはりイネ科の植物を食べるために農業上では害虫とされる「ばった」が登場しますが、酪農家でもある作者にとってそこまで切実な脅威ではないはず。むしろ、種は異なれど同じ大地の上に棲みついている隣人のような親しみさえ感じているような印象さえ受けます。
しかし、“それ”はスマホを構えて写真におさめようとするや、どこかへ飛んでいってしまう。だから大抵は写っているのは地面ばかりということになる。こういうことは対象がお月様であれ、身近な他者であれ、私たちはしばしば経験しているように思います。
つまり、「地面」とは誰かが確かにそこにいたというその痕跡であり、とらえ損ねた「ばった」とは現在進行形の、なまなましい他者のリアル。そして、そうしたリアルと向き合っているところの自分自身とも言える。だとすれば、私たちは普段から地面ばかり、すなわち、対象や相手の“情報”を見ることに慣れ過ぎて、じかに相手そのものと触れあうことやその得難いよろこびをすっかり忘れてしまっているのかも知れません。
12日におうし座から数えて「接触」を意味する7番目のさそり座に火星が入っていく今週のあなたもまた、ギュッであれ、フワッであれ、ザラリであれ、何か誰かと直接ふれあっていく体験を追求していくべし。
行方の確認
現在の渋谷ヒカリエがある場所で、かつて最晩年の星の民俗学者・野尻抱影は「星に感じる畏怖」と題する講演を行い、その締めくくりに自分が死んだらオリオン座の右はじ、すなわち亡き妻が眠る宇宙霊園に葬られたいと語っていたといいます。ただし、これは野尻お得意の冗談でもあり、その頃よく口にしていた“ネタ”でもありました。
オリオンのね、長方形の四つ角のところ、…そこにねえ、神話に出るアマゾン女兵が……得意の盾を持って槍を持って立っている。これがぼくの“オリオン霊園”の番人ですよ。(1977年2月5日放送NHKテレビの対談より)
そして本当に、放送された年の秋の日の早暁(そうぎょう)に野尻は逝きました。正確には、1977年10月30日午前2時45分頃。弟子が確認すると、ちょうどオリオン座が南中し、子午線上にはオリオン座γ星ベラトリックス(ラテン語で「女戦士」の意味)が昇っていたという。自己暗示ともとれた野尻の企ては、たしかに成就していたのです。
今週のおうし座は、陳腐で使い古された方式にただ任せるのではなく、大切なもの、愛すべきものへの洗練された崇敬を示すことができるかどうかが、ひとつの焦点となっていくはず。
おうし座の今週のキーワード
×さわる
〇触れる