おうし座
飼い馴らされずにいるために
非中心化された市民の心得
今週のおうし座は、サイードの語った知識人の使命のごとし。あるいは、うつろいやすさと漂泊のなかにとどまり続けていこうとするような星回り。
パレスチナ出身の批評家エドワード・サイードは、授けられた名前において既にアングロ文化・英語文化への関係を象徴する名前である「エドワード」と、アラブ世界を象徴しつつ出自についての曖昧さを残す家系名「サイード」という、折り合うことの難しい違和を抱えていました。
しかし彼はそんな自身の出自の矛盾に対する立場を示すべく、亡命やディアスポラ(故郷の喪失と離散)の歴史背景を踏まえながら、知識人の使命について次のように語りました。
知識人が、現実の亡命者と同じように、あくまでも周辺的存在であり続け飼い馴らされていないでいるということは、とりもなおさず知識人が君主よりも旅人の声に鋭敏に耳を傾けるようになること、慣習的なものより一時的であやういものに鋭敏に反応するようになること、上から権威づけられて与えられた現状よりも、革新と実験のほうに心を開くようになることなのだ。漂泊の知識人が反応するのは、因習的なもののロジックではなくて、果敢に試みること、変化を代表すること、動き続けること、けっして立ち止まらないことなのである。
これは知識人論でありながらも、同時に脱西欧化され、非中心化された「世界市民」としてのひとつの思考と行動の原理を新たに打ち立てようとする試みでもあるように思います。
1月7日におうし座から数えて「生きた知識」を意味する3番目のかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、新たな時代の風通しを身をもって体感していくことがテーマとなっていきそうです。
定住と漂泊の両立
例えば、明治・大正の大文豪である森鴎外にしても、軍医の仕事をきちんとやりながら、すべてを捨てて漂泊できないという心のきしみを利用して、自分の文学というのを作っていった訳ですが、漂泊心の強い人ほど定住というか、どこか土地を定めて生きることで、生みだしていけるものもあるのではないかと思います。
何度も何度も、同じ場所でつまづき、繰り返し同じ道を歩き、道に生える木にしろ岩にしろ、嫌というほど顔をつきあわせていく中で、そこに自分なりの思いを刻みつけたり、かすかな変化を通じて何かを受け取ったりしていく。
土地に力を受けるとは、そんな「自分個人よりも大きな自分の代名詞を得る」ということでもあり、それは旅の中で暮らしを立てるなんてことが難しくなってしまった現代社会で、自分独自のものを作っていくには避けて通れない道とも言えるかも知れません。
俳人の金子兜太は、それを「定住して漂泊心を温めながら屹立していく」という言い方で書いていましたが、今週のおうし座はそういうことをいかに自分事として考えていけるかが問われていくでしょう。
おうし座の今週のキーワード
果敢に試みること、変化を代表すること、動き続けること、けっして立ち止まらないことに反応し続けるということ