おうし座
神聖なる怠惰
気にすべきは純度と貴賤
今週のおうし座は、酩酊を求める人間の性向のごとし。すなわち、一時的に日常ではないどこかへ連れ去られ、洗い流されていくような星回り。
人間はポジティブな知的活動や生産行為を営む一方で、かくも自失や退嬰を求めるアクションを起こさずにはいられないのは、一体なぜだろうか。
この問いに対し、深層心理学者は「タナトス(死の欲動)」を持ち出し、大脳生理学者はシナプスやA10神経、脳内麻薬物質とそのレセプターを検証し、民俗学者はハレとケの境界線を失った近代社会においてハレの祭りを踊る上で「もの憑き」が起こる必然性を説くだろう。
あるいは、社会心理学者は子供が滑り台やブランコで遊ぶのと同じ位相に、自失と酩酊を味わおうとする人間の性向を位置づけるかも知れない。この心の遊戯装置は異界への脱出であり、たいていの場合は異界の入り口にたどり着いたあたりで夕飯を告げる母親の声で日常に呼び返されるが、そのまま向こう側へと行ってしまうことだって少なくないのだ、と。
医学者であれば、大学の研究室から生みだされた阿片やモルヒネ、ヘロイン、LSDなど、民間ではかつて霊薬とされたものの成れの果てを、黙って指し示すはずだ。ただ、学者たちがそうして幾ら説明しようとしょせんは“文体”の問題に過ぎず、違法か合法かはこの際脇に置くとしても、体験する側にとって問題となるのはその純度や貴賤だけなのだ。
4月1日におうし座から数えて「自失や退嬰」を意味する12番目のおひつじ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、できるだけ純度が高く、可能な限り卑しくないその体験をこそ求めていきたいところ。
霊媒師デカルト
ガリレオやニュートンによる科学的発見などと並行するように、「自分はなぜここにあるのか」と考える事自体が自分が存在する証明であるとして近代の幕開けを飾ったフランスの哲学者ルネ・デカルトは、朝が遅かったことでも知られています。
評伝によれば、目が覚めてからもベットの中で考えごとをしたり、書きものをしたりして、11時かそこらまで寝床でぐずぐずしていたそうで、しかも毎晩10時間はたっぷりと睡眠を取っていたいたのだとか。
デカルトは手紙に「私の心は眠りのなかで森や庭園や魔法の城をさまよい、想像しうるかぎりのあらゆる快楽を経験する。そして目が覚めると、その夜の夢と白昼夢を混ぜ合わせるのだ」とも書いていましたが、優れた頭脳労働をするには怠惰な時間が不可欠だと信じていた彼にとって、午前中のベッドのなかでの自失や退嬰は、1日のなかでもっとも神聖な知的活動であり、ある種の宗教儀礼だったのです。
その意味で、今週のおうし座もまた、インスピレーションを日常へと引き入れるための習慣づけの力の大きさを改めて意識していきたいところです。
おうし座の今週のキーワード
必要不可欠な怠惰をきちんと確保していくこと