おうし座
胎児の世界
記憶以前の記憶としての生命実感
今週のおうし座は、「胎盤のぬめりびかりの仔馬かな」(岡田一実)という句のごとし。あるいは、受け継がれ引き継がれしてきた自然の営みにスッと馴染んでいくような星回り。
約1年の妊娠期間を経て春に生まれてくる「仔馬(こうま)」にとって、子宮内に形成される「胎盤」は母親との連絡器官であると同時に、酸素や栄養などを供給してくれる必要不可欠なライフラインでもありました。それが出産とともに役目を終えるや否や、仔馬とともに排出され、ここでは春の日差しの下でやさしげに照らされているのです。
この地上に生まれてくる新たな生命はみな、そうした隠れたサポートに支えられて初めて生まれてくることができるのであって、掲句はそうして連綿と紡がれてきた生命の神秘を、なまなましくもさりげなく示してくれています。
生まれてきた仔馬は、1時間もすれば自力で立ち上がって母親の乳を探し始め、おぼつかない鼻先でつつく仔を、母馬もきちんと乳へと誘導してあげるのですから、馬という生き物の力強さはすでにここから始まっているのだということが、しみじみわかります。
同様に、3月21日におうし座から数えて「個人のスケールを超えた営み」を意味する12番目の星座で春分(太陽のおひつじ座入り)を迎えていくあなたもまた、密かなところで自分が生かされてきた存在であり、自分もまたそうしたサポートに少なからず参画していくのだという実感を覚えていきやすいでしょう。
跳ぶために退く
人間の社会は長いあいだ、男と女と子どもという3つのグループに分けられてきた訳ですが(今ならここにXジェンダーを加えるべきかも知れません)、そこではしばしば男にも女にも割る振ることのできない衝動や心理が子どものカテゴリーへと無言で押しつけられてきたという現実があるのではないでしょうか。
そこには慈悲と残酷、無邪気と悪意といった両義性が微妙にゆらぎつつも両立しており、葛藤している情報ネットワークの総体としての、赤裸々な人間本性が海の如くたゆたっては、時おり男や女としてのみ存在していることに困難を感じた者を誘うのです。
その意味で、われわれの存在ははじめからネオテニー(幼形成熟)を伴っているのであり、「幼熟者」こそが人間の代名詞なのだとも言えるでしょう。
そして今週のおうし座もまた、そうした幼形回帰の衝動がひときわ強く湧いてきやすいタイミングにあります。
いっそのこと、無理にジェンダーや社会的立場に自分をくくりつけるのではなく、すべてを忘れていったんそうした衝動に身を任せてみるといいかも知れません。
おうし座の今週のキーワード
胎盤との接続