おうし座
まだ見たことのない春へ
全力のさえずり
今週のおうし座は、「うぐいすの啼くやちいさき口明(あけ)て」(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、みずからの口で“春”を告げていこうとするような星回り。
鳴き声の大きさとその身体の小ささを対照的に表した一句。小ささの方は、さらにうぐいすの口元に焦点を置いてみせたことで極度に強調され、その対比はより一層鮮やかなものとなっています。
うぐいすの鳴き声は2種類あり、「チャッチャッ」とあまり目立たない鳴き方をするのは「地鳴き」といって1年中聞くことができますが、春先に聞くことのできる「ホーホケキョ」と鳴くのはオスがメスに求愛するための「さえずり」で、掲句の場合も後者でしょう。
小さな身体が小さな口をあけて、それとつり合いの取れないほど大きな、鋭い声で鳴く。その凛々しくも可憐な姿が、じつに明快なデッサンで浮かんでくる訳ですが、翻って人間はと考えてみると、図体は大きくともそれに見合うだけの声を発するどころか、うぐいすのような切実な要求や強い実感を口にしていく機会はほとんどないのではないでしょうか。
その意味で、3月10日におうし座から数えて「深い実感」を意味する2番目のふたご座で上弦の月(行動の危機=動かないとヤバい)を迎えていく今週のあなたにとって、自分の切実な願いや欲求をきちんと誰かに伝えていくことは大切なテーマとなっていくはずです。
スイングバイとしての白うさぎ
この世では、ときどき機械的に反復される慣習の世界に決して囲い込まれない決定的な偶然が起きるものです。それは何かの拍子にひょいと飛び出してきては、『不思議の国のアリス』の白うさぎのように、私たちを「その日その日をどう送ろうか」とか、「いかに安楽をキープするか」とか「何を食べ、誰と寝るか」といった目の前の反復的な退屈の迷路の外へと連れだしてくれるのです。
ただ同時に、そうして不意になにか見慣れないものが飛び出してくることほど、人々の不安を掻き立てる、不穏といってもいい状況はないでしょう。なにせ、これまでこれこそが現実とばかりに思っていた世界の方が幻想で、ウソっぱちで、欺瞞だらけであることに気が付いてしまうかも知れないから。
けれど、そこでたじろいではいけない。お笑いライブの席に座ってせっかくの演目を真面目腐って鑑賞するほど滑稽な光景というのもないのと同じで、もしもいったん事が起きてしまったのなら、あとはポップコーンを片手に笑い転げながら、足元の「現実」がガラガラと崩れていく精神の冒険をただただ楽しめばいい。
今週のおうし座は、それくらいのつもりで思いきり冬の制約からおのれを解き放っていきたいところです。
おうし座の今週のキーワード
これまでの「現実」を粉砕するつもりで