おうし座
戦慄と儀式
研ぎ澄まされた予感の結晶
今週のおうし座は、「戦慄のかくも静けき若楓」(原民喜)という句のごとし。あるいは、自身をひとつの媒体にして振動させ占いをしていくような星回り。
楓の木は秋の紅葉もさることながら、初夏の若葉の美しさもまた格別のものがあります。この「楓」は作者が少年時代から親しんできた自宅の庭の楓で、しばしば夢想の対象となってきたのだそう。
掲句は広島に落とされた原爆の被爆数日前の作で、「戦慄」の一語は確かに訪れた自身の運命への予感をなまなましく伝えてくれています。
家が堅牢だったこと、作者が狭い便所にいたことから一命はとりとめるが、家はその後の火災で焼失してしまいます。その後、作者は原爆投下の惨状をメモした手帳を基に小説『夏の花』を書き上げ、今日でも原爆投下の状況をリアルに、そして詩的に表現した作品として評価が高いのですが、そこには被爆直後に「遂に来たるべきものが来た」と「さばさばした気持」で事態を受け入れるという描写が出てきます。
そして一方で、作家として「このことを書きのこさねばならない」と決意するのですが、その後、避難の過程で想像を絶する被爆の実相を目の当たりにしていくのです。
12日に自分自身の星座であるおうし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、作者ほどではないかも知れませんが、「来るべきもの」が訪れる予感に少なからず触れていくことでしょう。
毎朝の儀式
黒人女性で初めてノーベル文学賞をとったトニ・モリソンは、自身の作品の執筆にとりかかる時間帯は時代によって変わっていったことで知られています。
1970年代から80年代にかけてのインタビューでは、夜に小説を書くと答えていたものの、90年代に入ると早朝になったのですが、その理由が「日が暮れるとあまり頭がまわらなくて、いいアイデアも思いつかない」からだそう。
執筆のために5時ごろ起床、コーヒーを作って「日の光が差してくるのを眺める」のが、彼女の毎日の儀式であり、特に日光の部分は重要なのだとか。
作家はみな工夫して、自分がつながりたい場所へ近づこうとする。(中略)私の場合、太陽の光がそのプロセスの開始のシグナルなの。その光のなかにいることじゃなくて、光が届く前にそこにいること。それでスイッチが入るの。ある意味でね
今週のおうし座もまた、原が庭の楓を毎日眺めていたように、自分なりの仕方で日常を儀式化するべく工夫を凝らしていくことが一つのテーマとなっていくでしょう。
今週のキーワード
生活に厳かさを