おうし座
消えない土のにおい
一茶の開き直り
今週のおうし座は、「これがまあつひの栖(すみか)か雪五尺」(小林一茶)という句のごとし。あるいは、軽やかになど生きられない自分を現に生きていこうとするような星回り。
文化9年の年明け、50歳になろうかという頃の作。作者は1月19日に父の十三回忌を済ませ、その後、長年にわたり揉めに揉めてきた継母と腹違いの弟との遺産相続問題にやっとの思いで決着を着け、長く続いた漂泊生活に終止符を打つ覚悟を決めたのです。14歳でひとり江戸に出されてから、じつに36年にもわたる借りぐらしの人生でした。
作者の故郷である北信濃は日本でもっとも雪深い地方であり、「雪五尺」も不思議ではありませんが、「これがまあ」というのはそんな故郷への挨拶であり、江戸とは違ってずっと土着的な生活意志が求められる今後をめぐって、率直な心情を表わしているようにも思えます。
一茶の生まれる前の時代に生き、旅に人生を捧げた松尾芭蕉は「幻の栖」の語をよく句に詠みましたが、そのロマンティシズム的な調べに比べると一茶の「つひの栖」の語にはグッと重たい響きが込められていますし、そこにはどこか、長所も短所も受け入れ、そうとしか生きられない自分だという開き直りのようなものさえ感じられます。
21日に自分自身の星座であるおうし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、どこかで土の匂いが消えず、長所も短所も含めた自分というものを改めて受け入れ、開き直ってみるといいかも知れません。
もののけ姫のジバシリ(地走り)
『もののけ姫』の劇中で、イノシシの生皮をかぶって常人とは思えない動きで乙事主という巨大なイノシシの神を欺く者たちが出てきました。彼らジバシリは、ジブリの創作ではありますが、おそらく狩猟を生業にしていた山の民をモチーフにしたものでしょう。
山や森のように木々が密集し何が潜んでいるか分からない深い森や、岩が隆起して足元が不安定で即座に方向感覚が狂わされてしまうような場所は、常人では近づくことすら困難です。ましてや舞台は古代から存在する神々が住まうと言われる場所ですから、敵方で地味な印象ではありましたが、ジバシリは欠かせない存在だったはず。
平地に定住しない彼ら山の民は、今日ではすっかり姿を消してしまいましたが、その起源はきわめて古く、日本だけに限らず時代を問わず世界中に存在した普遍的な「野人」の系譜にあたる存在と言えるでしょう。つまり、いくら私たちが文明人のふりをしようとも、その化けの皮をはがせば、そこには紛れもなき野人の相が今もなお深く刻み込まれている可能性があるということ。
今週のおうし座もまた、心の奥底でうごめくジバシリたちの足音がだんだんとこちらへ近づいてくるのが感じられるかも知れません。
今週のキーワード
本能と系譜を受け入れる