おうし座
檻ではなく物語を
魂の呼応
今週のおうし座は、村上春樹の長編小説『1Q84』の天吾と青豆のごとし。あるいは、自分が取り返しがつかないほど道に迷っていることに改めて気が付いていくような星回り。
きわめて長くおそろしく内容の複雑なこの小説は、それでも基本的には天吾と青豆という主人公同士の恋愛物語であり、その核は彼らがまだ孤独な少年少女だった過去にあります。
二人はある日、誰もいない放課後の小学校の教室で、一度だけ長いあいだ手をつなぎ目を見つめ合った。その瞬間、当時は自分らでもよくわかっていなかった、静かで大きな意味のある瞬間は、その後ずっと二人のなかから消えることはありませんでした。
青豆は自分が近く去っていくことを知っていたため、自分の存在を天吾の手のひらに刷りこみ、それによって彼の魂は永遠に変わってしまったのです。
それから20年が経って、二人はそれぞれに孤独な人生を送りながらも、ある事件に別々に巻き込まれながら、次第に互いの人生がずっと関わり合ってきたことを知っていきます。
何によって知りえたのか。それは、道に迷うことによって。道徳的に、あるいは単に愛を見失ったという意味で、取り返しのつかないほど道に迷っている感覚を噛みしめていく中で、やっと二人の人生は少しずつ繋がり始めます。
そんな話ばかばかしいし、現実ではありえないって?
6月21日におうし座から数えて「生き返り」を意味する3番目のかに座の初めで、日食と新月を迎えていく今のあなたなら、どこかで衰えてしまった愛をかき立てる力を改めて呼び覚ましていくことができるはず。
簡単に話を終わらせようとしないこと
この作品を執筆した背景について、村上は1995年の阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件、2001年の9.11事件に言及した上で、次のように語っています。
「僕が今、一番恐ろしいと思うのは特定の主義主張による“精神的な囲い込み”のようなものです。多くの人は枠組みが必要で、それがなくなってしまうと耐えられない。オウム真理教は極端な例だけど、いろんな檻というか囲い込みがあって、そこに入ってしまうと下手すると抜けられなくなる」
「物語というのは、そういう"精神的な囲い込み”に対抗するものでなくてはいけない。目に見えることじゃないから難しいけど、いい物語は人の心を深く広くする。深く広い心というのは狭いところには入りたがらないものなんです」
道に迷うことによってもたらされるよい点は、世界が広いということを知れるところであり、
そこで必要となってくるのは自分を押し込む"檻”などではなく、もっと先まで歩いていこうと思わせてくれるだけの"物語”でしょう。
今週のキーワード
原稿用紙一枚分に閉じられた人生を開いていく