おうし座
月光のささやき
魅惑の倒錯
今週のおうし座は、眠る美少女との添い寝のごとし。あるいは、「深い闇の底のあやしい明り」に誘われていくような星回り。
川端康成の小説『眠れる美女』は、薬で眠らされている若い女に添い寝し、体に触れもせずに一夜を過ごす、そんな老人専用の高級娼館の物語。
初めて訪れた頃は、「なに、自分はまだ本番まで致せるぞ」と、内心ムッとしていた主人公の江口老人も、次第にその悦楽にはまり込んでいきます。
「なにもわからなく眠らせられた娘はいのちの時間を停止してはいないまでも喪失して、底のない底に沈められているのではないか。(中略)もう男でなくなった老人に恥ずかしい思いをさせないための、生きたおもちゃにつくられている。いや、おもちゃではなく、そういう老人たちにとっては、いのちそのものなのかも知れない。こんなのが安心して触れられるいのちなのかもしれない。」
そう、眠る美少女は、老人にとって「性」へと誘うフェティシズムから、いつのまにか「死」へと誘うフェティシズムへ変わっていく。それは自分が死にたいとか、そういうことではなくて、もっと倒錯したところで「死」そのものが魅力的であることを知ってしまうのです。
6月6日におうし座から数えて「寝室」を意味する8番目のいて座で、満月を迎えていく今週のあなたもまた、ふつうに日常生活を送っているだけでは決して気付かなかったであろう欲望を、静かに燃やしていくことになるかも知れません。
心の穴と向き合う時間を
人は誰しも心の奥底に「暗い穴」を持っています。それは欠陥というよりも、生きているとどうしても生じてくる生きづらさや寂しさ、コンプレックスや劣等感、嫉妬や罪悪感といった自分ではコントロールできない感情や衝動などが湧いてきてしまう場所でもあり、またそれらをそっとしまっておける押入れのようなものとも言えるかも知れません。
いずれにせよ、ぽっかりと開いた穴を前にすると、私たちはどうしてもそれを埋めたくなったり、なかったことにして塞いでしまいたくなる訳ですが、今週のあなたはそんな心の穴を否定するのでも肯定するのでもなく、穴のかたちを観察しつつ静かに寄り添っていけるかどうかが問われていくでしょう。
その際、覚えておかなければならないのは、こうした心の穴というのは、誰か人の手を借りることで完璧に埋まるということは決してあり得ないのだということ。
恋愛しかり、友情しかり、家族の向けてくれる愛情だって、それは難しいのです。ちょうど月の光が照らすくらいのささやかさで、自分の穴の底へと降りてみること。江口老人のように、まずはそこから始めてみてはいかがでしょうか。
今週のキーワード
月光に視線を重ねていく