おうし座
空白とそれを充たすもの
不在の手触り
今週のおうし座は、「雁行て門田も遠くおもはるゝ」(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、嘘偽りのないからっぽの器となって開かれていくような星回り。
雁は秋の終わりに日本に飛来し、冬を越えて春になるとまた北国へと帰って行く渡り鳥。
掲句は冬のあいだ雁でにぎわっていた田んぼを前に詠まれたものであり、門前の、すなわちすぐ目の前に広がる田であるはずなのに、それがひどく遠く思われると言っているのです。
ここで述べられている“遠さ”とは、空間的な距離というよりも、雁の不在によって引き出された心理的な隔絶や、心のすき間の広がりを表したものでしょう。
いつの間にかそばにいるのが当たり前になっていた存在が、遠く離れた場所へ行ってしまうことで初めて、人はこの世界の広大さや自分の世界の小ささをはっきりと認識するのかも知れません。
15日におうし座から数えて「どこか遠く」を意味する9番目のやぎ座で、下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、当たり前にあるものではなく、今の自分には何が欠けており、どこに意識を向けていけばそれが手に入るのか、改めて思い知っていくはずです。
間を空ける
「内面に沈黙をつくりだし、いっさいの欲望、いっさいの意見に口をつぐませ、愛をこめ、たましいのすべてをあげ、言葉にはださずに、「みこころの行われますように」と思いをつくすとき、次にこれこそどうしてもしなければならぬことだと、あやふやさの一点もなく感じられることがあったら、(もしかすると、ある点では、これも思い違いかもしれないのだが……)それこそ、神のみこころである。」(『重力と恩寵』、シモーヌ・ヴェイユ、田辺保訳)
人間が神のみ、心そのものを完全に知ることは決してできませんが、祈りにおいて個別的な事柄や思惑を頭の中から祓われていくということは、そう珍しいことではありません。
少なくとも、どんな行動、あるいは態度を選択していくべきかをはっきりさせていくことはできるのです。ヴェイユの言うようにじっと目をこらして、観察し、自分に問いかけることを怠らなければ。
それが今週のおうし座のテーマである「空虚な器」ということの要点なのだと言えるでしょう。
今週のキーワード
神の見えざる手