おうし座
孤独に打ち込む
増幅の儀式
今週のおうし座は、「春ひとり槍投げて槍に歩み寄る」(能村登四郎)という句のごとし。あるいは、しっかりとひとり運命の残酷さに向かいあっていくような星回り。
春のうららかな日に、ひとりやり投げの練習をしている景を詠んだ句。 数あるスポーツの中でも「槍投げ」は孤独な競技であり、投げては拾いの繰り返しのうちにあるかすかな倦怠を、中八の「槍投げて槍に」という字余りで醸しだしつつ、畳みかけるかのようなヤ行の繰り返しのなかで、増幅されていく「霊(ヤ)」が「春」という大らかな季節のなかに包まれていく。
それはもはや、膨らむばかりで止めようがない。自らの運命を見つめる作業に他ならず、槍がザクッと大地に突き立つ音は、無意識の奥底に爪痕を残さんとするかのように響いてくる。 一見地味ではあるが、決して見過ごすことのできない、どこか見る者の心を打つ景であり、何より当人にとっても忘れることのできない時間だろう。
20日におうし座から数えて「隠れ家」を意味する12番目のおひつじ座へ太陽が入り春分を迎えていく今週のあなたもまた、きちんと自分と対話するだけの時間や空間を確保していきたいところ。
自叙伝のたとえ
例えばあなたが自叙伝を書いていくとして。 そこでは何度でも過去を書き直すことができるし、消し忘れた事実なども消し直していくことができる。ただできないのは、「これが私だ」という明確な定義を与えること。これだけは自叙伝を書き終えた後に、書ききれなかった(or消しきれなかった)こととしてぼんやり心に残るという形でしかありえない。
またそこには時に裏切りも生じてくる。というのも、書き直しや消し直しという作業は本質的に自己への裏切りを含んでいるから。
そしてあなたの自叙伝はまだまだ未完成であり、今週そこに新章をもうけていくということは、これまで書き継いできた自叙伝のどこかを削っていくということでもある訳だ。
ただし同じ削るのでも、PCの画面上のゴミ箱に入れる・断裁機でスパッと一刀両断する・合間の時間にシュレッダーにかける・あえて消しゴムで書いた文字を消してゆくのとでは、出来上がりも違うものだということをどうか覚えておいて。
今週のキーワード
消してゆく言葉を大切にする