おうし座
卜占一閃
「すずしさの杖」を手に
今週のおうし座は、「日光月光すずしさの杖いつぽん」(黒田杏子)という句のごとし。あるいは、心寄せるものを頼りに旅路の先へと導かれていくような星回り。
「日光月光」とは、昼夜ともに天の光に導かれて、の意。
もちろん、同時に薬師如来の脇侍である「日光菩薩」と「月光菩薩」も意味していると思いますが、それはかつては巡礼と言えば、菩薩の厚い守護があって初めて成り立つものと考えられていたから。
「杖いつぽん」にすがるようにして、ひたすら歩いていく巡礼の旅路は、現代の私たちが想像する以上に過酷なものでしたが、作者はそんなみずからの身体と一体化しているような杖を「すずしさの杖」と呼んでいます。
おそらくそれは、どんな炎暑の日であっても、杖さえ握っていれば涼気を与えてくれるという物理的な意味での「すずしさ」というより、古来より旅行人のもつ杖に宿るとされた豊穣や富を授け、邪霊を鎮めてくれる霊的呪力の「すずしさ」のことを言っているのでしょう。
今のあなたにとって、掲句と同じ意味での「すずしさ」を感じるモノや人はいるでしょうか?
8月1日(木)におうし座から数えて「心の拠り所」を意味する4番目のしし座で新月を迎えていく今週は、そうしたあなたにとっての「杖」に自分の命運を託していきたいところ。
「移行と変容」が促される
古くからの卜占(偶然性を利用した占い)の一種に杖占と呼ばれるものがありました。
未知なる霊魂をの去来する辻(人の往来が多い十字路や分かれ道など)に杖をたてて、その倒れ方や倒れた方角に基づいて判断していく占いで、これもやはり杖によって神意を間接的に知り、精霊の声をたずねることができるとする信仰に根差していた訳です。
あるいは、こうした占いの存在は、杖というものが生/死や現世/他界、あちら/こちら、内部/外部といったあわいの境界性そのものをシンボリックに表象させるアイテムであり、それが持ち出されてきた瞬間に、一種の道路標識の役割を果たすことで、何らかのかたちで「移行と変容」が促されてきたのだとも言えるでしょう。
その意味で、今週のあなたはいにしえのお遍路さんや行商人、僧や尼など、マージナル(境界や周縁)な場所での生を強いられた人々の在り様と、どこかで自分を重ねていくことになるかもしれません。
今週のキーワード
辻で杖占する者