おうし座
幻影がすり抜ける
運命感覚
今週のおうし座は、「永き日のにはとり柵を越えにけり」(芝不器男)という句のごとし。すなわち、いつの間にか越えてしまった過去の手触りをそっと失っていくような星回り。
最も日が長くなるのは夏至の前後ですが、掲句の「永き日」はそれ以前の冬の時期と比べた実感を込めて使われており、意味するところは以前のような厳しさも、そのぶり返しも消えたのんびりした1日といったところ。
飼われていたニワトリが柵を飛び越えてゆくというだけの一句。
ただ、その様子がどこかスローモーションとなって、作者の眼前を過ぎていったのでしょう。静けさの中で、過ぎた過去はもう自分の手には戻らないこと、そして自分もまた永遠に続くと思っていた現在を、今まさに越えつつあることを悟ったのかもしれません。
そして、自分がもう以前の自分ではなくなってしまったことを実感していく時というのも、こうしたなんとも言えない寂しさと、静かな幸福感がない交ぜになったような情趣が不意に湧いてくるものではないでしょうか。
おうし座から数えて「自己価値」を意味する2番目のふたご座で新月が起こっていく今週は、まさに自分の根幹のところで何かが既に変わってしまったのだという現実を、ふとした瞬間に受け入れていくことになりやすいタイミングと言えます。
心の眼
シェイクスピアの『リア王』は、王室内の骨肉の争いがたちまち国家の規模をこえて、宇宙的な広がりを感じさせるダイナミックな展開へと進んでいく比類ないお芝居ですが、話の副筋であるグロスターとその子エドガーの残酷な逆境が、劇全体をじつに味わい深いものにしています。
目をくりぬかれ盲目となったグロスターは、自らが追っ手を差し向けたエドガーにそうと気付かぬうちに手を引かれつつ、次のようにつぶやくのです。
「わしには道などないのだ。だから目はいらぬ。目が見えたときにはよくつまづいたものだ」
そしてさらに続けて、こう言うのです。
「よくあることだが、ものがあれば油断する、なくなればかえってそれが強みになる。ああ、エドガー、お前は騙された愚かな父の怒りの生贄になった! 生き永らえていつかお前の体に触れることができたら、そのとき、俺は言うだろう、父は目をふたたび取り戻した」
今週は心の眼を通し、安穏に生きてしまえば決して見えないようなものを見ていくことを心がけてみてください。
今週のキーワード
掲句の作者である芝不器男は、26歳で夭折した。