さそり座
白痴だ
片手にすいか
今週のさそり座は、『物の本西瓜の汁をこぼしたる』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、大人物になったつもりで目の前の出来事を平然と受け流していくような星回り。
「西瓜(すいか)」を食べながら本を読んでいたら、ついつい赤い果汁がその本に落ちてしまったのだという。
おそらく、縁側で寝そべりながら、床に本を置きつつ、片手で西瓜を食べていたのでしょう。加えて浴衣かステテコ姿か、とにかく行儀の悪いことをするのにもってこいのラフな格好だったに違いありません。
そうして、はたと気付いた時には、うっかり本にしみを作ってしまっていた。とはいえ、「物の本」と言うくらいですから、そんなに高価でも高尚なものでもなく、気軽に読める雑誌のような本だったのかも知れません。
そして、当の作者自身もちょっと手ぬぐいで拭いたくらいで、何事もなかったかのように本を読み続けたのではないでしょうか。相変わらず、すいかを片手に持ちながら。
こうした悠揚とした大らかさというのは、俳句を力んで作ろうとしているうちはなかなかできるものではないように思います。その意味で、20日にさそり座から数えて「安らかさ」を意味する4番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、これくらいの大らかな気構えで横たわっていきたいものです。
無心であること
例えば、鹿は鹿である自分のことを否定したくなったりするでしょうか。おそらく、そんなことはないはずです。
秋になれば鹿は間もなくはじまる交尾期に備え、振る舞いを派手にしていく。オスはみなヒョーヒョーヒョーと鳴いたり、他のオスと角を突き合わせてメスの争奪戦を繰り広げたりする訳ですが、そういうあれやこれやの最中に、突然自分のやっていることが気恥ずかしくなったり、ましてや「なんか馬鹿みたい」と自分を否定したりすることもないはず。
今週のさそり座もまた、どこかでそんな鹿の姿が自分と重なっていく瞬間があるかも知れません。いや、鹿そのものになりきっていくうちに、自然と考えることがなくなっていく、といった方が正確でしょうか。
それはいわゆる思考停止とは違って、むしろ自分を思考から自由にしていくプロセスなのだと言えます。すなわち、もっともらしい理屈をこねたり、こずるい保険をかけたりせずに、ただ無心で走り回っていくうちに、人間以前の動物たちの美しい白痴を一時的に取り戻していくことができる。
今週のさそり座は、そういう無心になれる時間をいつも以上に大切にしていくべし。
さそり座の今週のキーワード
鹿は鹿である自分のことを否定したりしない