さそり座
意味の破れのほうへ
気球に乗ってどこまでも
今週のさそり座は、『眼球の分け入つていく雲の峰』(九牛なみ)という句のごとし。あるいは、狭苦しい現実を超えて、冒険する余地を何かしら再発見していくような星回り。
極小の身体部位である「眼球」と天高くそびえる「雲の峰」との対比が鮮やかな一句。しかし詠まれている情景そのものはあくまで主観的なものであり、その意味でどこか夢の中の体験のようなシュールレアリスティックさが漂っています。
また、「分け入つて」という言葉から種田山頭火の「分け入つても分け入つても青い山」を連想するひとも多いはず。どこまでも苦しい地上を這っていこうとした山頭火に対して、作者の場合は逆に地上から離れゆく浮遊感が行き着くところまで行ってしまうような怖さがありますが、これは放浪系と引きこもり系に置き換えることができるでしょう。
放浪系とは山頭火のようにホームレスのようになってしまったり、その日暮らしで全国各地を転々としたりといった、少なくとも定住の発想がない人たちであり、どんなに生活が辛くてもローン地獄や精神病院などに閉じ込められるよりはマシと考える。もう一方の引きこもり系は、時に奇妙な結界を張ったりなど、呪術的な形で一定の範囲内に立て籠もってしまうタイプで、場合によっては何十年も自室に蟄居(ちっきょ)するような事態が生じたりする訳です。
そして、概して前者より後者の方がより目まぐるしい妄想や、現実を根底からひっくり返してしまう眩暈のするような夢が巻き起こっているものであり、掲句もまたそうした精神的な躍動の痕跡を書き起こしたものと言えるかもしれません。
7月21日にさそり座から数えて「精神的な躍動」を意味する3番目のやぎ座で満月を形成していく今週のあなたもまた、逆説的ではありますが、積極的に引きこもってみるといいでしょう。
マンションの隣りの空き部屋
たとえば、マンションの隣りの部屋がいつの間にか空き部屋になっていたことに気付いたとして。時間によって差し込む光がどう言う風に変わっていくかとか、空中に舞うほこりの気配とか、ここではどう風が動いているか、どんな匂いがしているだろうかと、なんとなく想像しているときの、なんだかホッとするような感覚。
それでいて、これまでの生活から解放された空っぽの部屋が想像するごとに、妙に艶めかしいものに変わっていくような…。
あれは何なのだろうかと考えてみるに、習慣化された日常空間にポコッと空白ができることで、どこかでマンネリ化していた生の意味に破れが生じ、そこにいろんな感覚が触手を伸ばしていくうちに、生命力が生き返ってくるということなのかも知れません。
今週のさそり座もまた、手垢のついた意味の衣で包まれてしまった現実をもう一度<散乱>させていくことがテーマとなっていくでしょう。
さそり座の今週のキーワード
創造性とは身体が散乱していくなかで発揮されていく何かである