さそり座
心を大きく動かしていく
自分なりの青山河
今週のさそり座は、『陰(ほと)に生(な)る麦尊けれ青山河」(佐藤鬼房)という句のごとし。あるいは、深いところで自分を生かしてくれているものに肉迫していくような星回り。
山あいのくぼ地を意味する「陰」に実る麦の穂の黄色く成熟した景を描いた一句ですが、「陰」はまた赤子をうむ女性を連想させ、さらにその奥には古事記の穀物起源神話の雰囲気も広がっています。
すなわち、スサノオがオオゲツヒメという女神に食べ物を所望したとき、その女神が自分の鼻と口と尻からさまざまな美味なものを吐きだし、それを調理して差し上げたことを知ったスサノオが、自分を汚すものだと怒って殺してしまった。すると、女神の死体から稲などの五穀が生じて、中でも陰部から麦が生じ、これが地上に穀物がもたらされた起源となったというもので、このタイプの神話は世界中に広く分布しているのだそう。
初夏の青々とした山河に、麦がみのりの季節を迎えたことへの作者の感動は、こうした人類の太古の記憶を背景とすることで、高らかな生命讃歌にまで引き上げられていく。また、掲句では本来なら農耕に適さない山あいの地で営まれている人びとの生活のささやかさとしぶとさに対し、作者が深い共感を寄せていることも見落とせません。
5月23日にさそり座から数えて「心を動かすもの」を意味する2番目のいて座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、おのずと自分なりの生命讃歌をつむぎだしていくことになりそうです。
大蛇のごとく身を曝せ
先の話に限らず、太陽女神(アマテラス)の弟であるスサノオは大変な乱暴者であったため、死者の領域である根の国に追放されるのですが、その途中、出雲の川の近くを通りかかった際、その土地の首長夫妻が悲しんでいるのに出会います。
わけを聞くと、土地に住む大蛇が毎年いけにえを要求し、今年は自分たちの娘がこの忌まわしい犠牲者に選ばれてしまったというのです。そこでスサノオは一計を案じ、大蛇にしこたま酒を飲ませて酔わせたところに斬りかかり、激しい戦いの末にこれを倒します。倒された大蛇の体内からは、見たこともない剣があらわれ、剣と首長の娘を手に入れたスサノオは、出雲に住まいを定めて王となるのです。
この神話では、土地の首長が恐れる大蛇は自然の奥に隠された力を象徴しており、人間を脅かし食べてしまう「人食い」なのですが、乱暴者であったスサノオはそんな人食いと親和性があったため、面と向かって戦うことができたのです。そして、大蛇の体内からあらわれた「剣」はそんな自然の力そのものであり、それがスサノオの手にわたることで、単なる首長をこえた王権が誕生しました。
古代人の思考においては、食べることと交わることは同じであり、食べられることで相手の一部となっていったのです。今週のさそり座もまた、そうした食と性のリズムを通じて、どうしたら自分という存在を適切に循環させていくことができるのかということがテーマとなっていくでしょう。
さそり座の今週のキーワード
王の資質