さそり座
ただへこむだけで終わらせないこと
常識の世界に反して
今週のさそり座は、そばに黙っているだけの治療者のごとし。あるいは、自身の力の限界や無力さから逃げずに留まっていられるような関わりを模索していくような星回り。
半世紀に渡って精神医療の現場で臨床を続けてきた精神科医の塚崎直樹は、自身の経験を振り返って次のように語っています。
私は、精神科医になった最初のころ、自殺未遂の患者が出ると、厳かに生きる意味などをお説教して、人間の生きるべき姿について大演説を行っていた。しかし、その演説に感銘を受けた患者は一人もいない。大演説を聞いて生きる決心がかたまるようなら、家族や友人の話にこころを動かされないはずはない。そのレベルで救われないからこそ、治療を求めるのだし、治療者を求めるのである。治療者が常識の世界に戻ってしまっては、その意味も乏しい。現在では、そんな演説などしなくなった。そばに黙っているだけである。語るべきこともあまりない。(塚崎直樹『虹の断片―精神科臨床医、四八年の経験から―』)
当然、それでいいのかという思いは今もつねに持ち続けているはずです。それでも、塚崎は身近な人に自殺者がでた人や出そうな人へ少しでも激励や慰めになればという思いから次のようにも述べています。
治療者から見れば、自殺ということは、治療の失敗、限界を示すものだ。しかし、治療者もまた生き延びて、治療を求める人に答えようとすれば、その限界を受け入れていくしかない。自殺者は一つの問いをつきつけ、それを残していったわけだから、生き延びる人間は、その問いを受け止めるほかない。それは自分たちの無力を受けいれることである。しかし、それに一人で耐えるのは困難だ。医療は、その無力をともに担う人を持たなくては、続けられない。そういう思いを残された人に伝えたい。(塚崎直樹『虹の断片―精神科臨床医、四八年の経験から―』)
4月21日にさそり座から数えて「対等な関わり」を意味する7番目のおうし座で木星と天王星の合(センセーション)を迎えていく今週のあなたもまた、人は誰もが無条件に生き続けるものであり、そうでなければならないという執着を捨て、むしろ自分たちの無力をともに担いあえるような関係を築いていくべし。
レジスタンスと傷つき
この「みずからの無力さと向き合えるか」という問題は、カウンセラーや占い師など、かたちのないものを仕事の対象とするがゆえに、根深いアイデンティティ・クライシスを抱えざるを得ないような一群の人たちにとっては、ある意味で慣れ親しんだ問題と言えるかもしれません。
そこでは、みずからの基盤の脆弱さを補うために、つねにどこかで公的に/世間から認められ、評価されたいと思うあまり、極端な場合、公(国)や世間の方針の代行業となってしまったり、いわば「権力の犬」と化してしまう危険性を孕んでいる訳です。
そして、先の「無力をともに担いあえる関係の構築をしていく」ということは、そうした危険性と隣り合わせになりながらも、例えば自身の無力さを痛感した出来事をめぐって、ただ「傷つき」という受動的なニュアンスを持って受け止めるのでなく、より積極的な「レジスタンス」(信田さよ子)として、つまり、受けた衝撃についてどう認識し、対処し、強いられた変化に抵抗してけるかを、誰かとの関わりを通して示していくことに他ならないのではないでしょうか。
今週のさそり座もまた、そうしたある種の弾力性を、人との関わりの中にもたらしていきたいところです。
さそり座の今週のキーワード
無力さに抗う戦場としての日常