さそり座
いのちを革める
くらい土の中では
今週のさそり座は、春の到来へ向けてうごめき始めた地下世界のごとし。あるいは、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴと地中奥深くでうなりをあげていくような星回り。
詩人・牟礼慶子の『見えない季節』という詩に、「土のなかのくらさ」という大変印象的なフレーズが出てきます。
できるなら
日々のくらさを 土のなかのくらさに
似せてはいけないでしょうか
地上は今
ひどく形而上学的な季節
花も紅葉もぬぎすてた
風景の枯淡をよしとする思想もありますが
ともあれ くらい土の中では
やがて来る華麗な祝祭のために
数かぎりないものたちが生きているのです
その上人間の知恵は
触れればくずれるチューリップの青い芽を
まだ見えないうちにさえ
春だとも未来だともよぶことができるのです
(『魂の領分』)
冬の大地は、一見のっぺらぼうで、何もしていないように見えますが、春になるといっせいに芽が出て、撒いたわけでもないものまで一緒になって、草木ぐんぐん生えてきます。そこに至るまでの冬のあいだ、土のなかでどんなドラマが進行していたのか。
自然だけでなく人間存在の昏さがはらんでいる未来にも、そっと手を添えてくれるような牟礼の詩行に触れていると、改めて地下世界にひしめいている予兆にスッと目が開かれていくようです。
13日に自分自身の星座であるさそり座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自身のなかで来るべき豊かさを準備しつつある「土のなかの暗さ」を改めて実感していくべし。
単細胞生物の世代交替
すべての生命現象には“波”があります。山があれば谷があり、谷があれば山がありといったように、両者はなだらかに移行しながら交替していき、吸収・増殖と排泄・分化の双極的営みによってたえず自己更新を行っていく――。
食と性に代表されるような、こうしたいのちの波の作り出す拍動を「宇宙交響」と呼び、これより根の深い生命記憶はないと述べたのは、解剖学者の三木成夫でした。三木によれば、高等動物などの多細胞生物の場合、たがいに相手を見出して卵と精子の結合によって行われる性の営みは、単細胞生物の場合は2つの個体のあいだで核物質の一部の交換という形で行われるのだそう。
すなわち、比較的大型の雌核と小型の雄核の両者を備えた同士で、後者の雄核のほうが交換要因となって、ふたたび離れることで、単細胞生物のいのちは革まるのです。
今週のさそり座もまた、どこかでそうした原始的な本能に従いつつ、みずからを革めていくことがテーマになっていくでしょう。
さそり座の今週のキーワード
みずからに打ち寄せる運命の波のもう一つ奥へと分け入っていくこと