さそり座
野蛮人あらわる
※1月10日〜16日の占いは、諸事情により休載いたします。誠に申し訳ございません。次回は1月16日(日)午後10時に配信いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ウッホ、ウッホッホ…
今週のさそり座は、中島敦の「北方行」の一節のごとし。あるいは、言葉にできない思いをより一層募らせていくような星回り。
作家の中島敦が24歳頃から書き連ねた私小説「北方行」には、作者がみずからを投影させた主人公・三造が次のように語っている場面が出てきます。
いつのころからか、彼は、自分と現実との間に薄い膜が張られているのを見出すようになった。そして、その膜は次第に、そして、ついには、打ち破り難いまでに厚いものになって行った。彼は、その、寒天質のように視力を屈折させる力をもつ、半透明な膜をとおしてしか、現実を見ることができなくなってしまった。彼は、ものに、現実に、直接触れることができない。彼がものに触れ、ものを見、又は行為する場合、それは、彼の影がものに触れ、ものを見、又は行為するのである。
そうして、現実に直接つながれなくなり、そうしても生きている実感を得るところに近づくことができないという焦りについて、三造は続けてこう漏らすのです。
生きている、とは、どういうことか。人はそれを知ることはできない。只、感じ得るばかりだ。そして、その真実の生命の焔を常に全身の脈管に感じつつ、生きて行く事こそ、人間の、というよりは生物の―理屈も何もない―本然なのではないか。
こんな風にいくら自分に言い聞かせても、「真実」や「生命」といった言葉や概念の抽象性はどこまでもぬぐい切れず、それ自体のなまなましさは捉えられないでしょう。
同様に、2022年1月3日にさそり座から数えて「言語化」を意味する3番目の星座であるやぎ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、言葉というものの非直接的な表現手段のまだるっこしさや空虚さを介して、自分が追い求めているものの質感がこれまでより一層明確になっていくのを感じることができるかも知れません。
アンチ・出木杉くん
『ドラえもん』における出木杉くんは、勉強ができて先生への受け答えも完璧、スポーツも得意な上、ルックスもいい。ただそれにも関わらず、登場回数が圧倒的に少ないのは、視聴者として観ていても、友達として一緒にいてもさして楽しくないからでしょう。
彼はわかりやすい欠点や過剰さがないがゆえに、結果的にいつも自分ひとりだけがスマートな位置に立っていて、それがとにかくつまらないのです。その点、のび太にドラえもん、ジャイアン、スネ夫などは、よいところとダメなところのデコボコ具合が見事であり、それゆえに見ていて楽しく絡みがいもあり、一周まわって出木杉くん的スマートさを突き抜けた人間味が際立っているのだと言えるのではないでしょうか。
その意味で、今週のさそり座もまた、出木杉くん的なスマートさからどれだけ脱け出していけるかが少なからず浮き彫りとなっていくでしょう。
さそり座の今週のキーワード
滑らかさよりも引っ掛かりを