さそり座
力を取り戻すために
「大河」とは誰なのか
今週のさそり座は、「五月雨や大河を前に家二軒」(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、危うくも決定的なバランスから立ち上がっていこうとするような星回り。
掲句は作者が62歳の詠んだもの。「大河」はすさまじい川の流れを表している一方で、「家二軒」は洪水で孤立無援状態となった、いかにも弱弱しく貧寒としたさまを表しており、そこで人びとが寄り添うように暮らしているという構図です。
ここでは「大河」は力を振るっている強いものの象徴であり、それは現代であれば政治を私物化している政権であったり、大企業やエリートたちの権威主義的な振る舞いにあたるのではないでしょうか。
しかし、本来であれば民衆こそが大河であるはずです。なぜなら、民衆は一人ひとりは弱くても、心を寄せ合って結集していけば、たとえ大雨で濁流となった自然を前にしても、それを凌いでいくだけのポテンシャルを秘めており、少なくとも日本人にはそうした遠い遠い記憶が民族としてのDNAに刻み込まれているから。
本当に強いのは、「家二軒」の側の民衆の力なのです。その証拠に、政権運営は私たち民衆が払っている税金なしには成り立たない訳です。
10日にさそり座から数えて「結びつき」を意味する8番目のふたご座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、手に負えない力の暴走に対していかに振る舞っていくべきか、改めて原点に立ち返っていきたいところです。
心を虚しく思い出す
「多くの歴史家が、一種の動物に止まるのは、頭を記憶で一杯にしているので、心を虚しく思ひ出す事が出来ないからではあるまいか」という小林秀雄の言葉を借りれば、今週のさそり座の人たちも、まさに心を虚しくして自分にとって必要であり、またかけがえのない記憶を思い出していくことができるかどうかが問われているのでしょう。
消えてなくなったら寂しい、思い出せたら嬉しい、そんな当たり前の感情を、しばしば私たちはつまらない意地や屁理屈で台無しにしてしまいます。小林は、先の言葉の前に次のような一文を添えています。
思ひ出が、僕等を一種の動物である事から救ふのだ。記憶するだけではいけないのだらう。思ひ出さなくてはいけないのだらう。(『無常という事』)
今週あなたは、いったい何を思い出そうとしているのでしょうか?
今週のさそり座は、不意に想起されてきたものを、しっかりと生活に結びつけ、そこから力を得ていくことがテーマとなっていきそうです。
今週のキーワード
民族の原風景としての「家二軒」