さそり座
句にぶんなぐられて気分よし
出会いの絶景
今週のさそり座は、「梅咲いて庭中に青鮫が来ている」(金子兜太)という句のごとし。あるいは、出会いによって人生が広がり、また深まっていくような絶景感覚を得ていくような星回り。
梅が咲いているその庭に、青鮫が来ている。青鮫と白梅。一句のなかにあり得ないような取り合わせが為され、まるでシュールレアリスムの絵画のようですが、『金子兜太自選自解99句』によれば「春の到来を大いに喜んでいる作」とのこと。
そこに嘘はないのでしょう。ただ、あえて問うならば、喜んでいるのは“誰”なのか?ということ。作者の出征したトラック島での戦争体験を踏まえれば、「庭に来ている青鮫」とは南の海から生きて帰れなかった戦友たちの霊でもあり、その意味で掲句はそうした者たちへの鎮魂歌であり、自身のいのちを言祝ぐ歌でもあったのでしょう。
青い空気につつまれた庭先を回遊する青鮫とは、作者にとっていのちそのものであり、白梅と青鮫との出会いこそが、そのいのちが深まる決定的な場面としての絶景に他ならなかったのです。
2月18日にさそり座から数えて「善縁」を意味する7番目のおうし座に位置する天王星(想定外)が土星(想定内)と90度の角度をとって激しくぶつかりあっていく今週のあなたもまた、そんな“出会いの絶景”ということを感じることができるかも知れません。
永田耕衣の回想
出会いは絶景であるというのは、あの天下の大盗賊・石川五右衛門が煙管を吹かして「絶景かな、絶景かな」と言った、あの絶景のことで、もとは俳人の永田耕衣の言葉でした。
先の「善縁」というのも仏教の言葉で、物を欲しがるな、無欲無心というのが仏教の基礎的な目的です。ただ、永田からすればやはり欲しいものがあったら買いたい訳で、ある時に欲しいものを欲しいだけ買っていけば、そのうち欲しいものもなくなるんじゃないかということを知り合いの和尚に言ったのだそうです。
そうしたら「いいことを言うじゃないか」と。てっきり「ばかやろう」と言われると思った。というのも、その和尚というのは自分よりだいぶ年上で、曹洞宗の世界で認められて永平寺に呼ばれるような偉い人だったから。
その時に、餞別に自分のコレクションのひとつをあげたら、喜んで受け取ってくれて、これは逆に影響を受けたな、善縁だなと思ったということを、どこかで回想していたのです。
今週のさそり座も、ひとつそんなことを思い描きつつ、自身にとっての善縁ということにしみじみ思いを巡らせてみるといいでしょう。
今週のキーワード
「絶景かな、絶景かな」