さそり座
慰撫の起承転結
自分をなぐさめる歌
今週のさそり座は、清代の詩人・厲鶚(れいがく)の「晝臥(ひるね)」という詩のごとし。あるいは、肉の解放をことほいでいくような星回り。
貧しい生まれながら苦学して29歳の時に中国の官僚試験である科挙に臨んだものの合格できず、郷里に帰っていた30歳の頃に作られた詩で、冒頭の二句は次のよう。
妄心(もうしん)澡(あら)い雪(すす)いで尽(ことごと)く空(くう)ならしめ
長日(ちょうじつ)門を関(とざ)す一枕(いっちん)の中(うち)
これを書き下すと、
「浮き世の思いを/さっぱりと洗い流して
夏の日ながに門を閉ざし/ひとねむりする」
となります。
落第した悔しさや断ちがたい未練をみずから慰めている訳ですが、失望して孤独になっている自分を描いた続く二句はとてもユーモラスです。書き下しだけ引用すると、
「足をつま立てても/ほこりも寄りつかず
頬杖をついてたどる清らかな夢路に/道連れはいらない」
26日未明にさそり座から数えて「心地よい感覚」を意味する2番目のいて座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、何よりも身体をいたわり無理をさせないことで、大いに自分を慰めていくとよいでしょう。
小窓の向こうの夕日
さらにつづく二句は、寝ている周りの情景です。
「黒いものにハッとすると/石段にひるがえるツバメの影だった
ひんやりしたのは/槐(えんじゅ)の花を地面に散らす風だった」
中国原産のマメ科の高木で、夏に黄身がかった白色の小花を咲かすのですが、これも科挙のライバルや彼らに敗れて散った自分自身への比喩であり、脳裏にこびりつく影とも言えるかも知れません。そして最後の二句は、みずからへの慰めの結びの言葉となっています。
「ありがたいものだ/夕日はすべてを察するかのように
目覚めるといつも/小窓の東を金色に染めてくれる」
こんな風にみずからの苦悩を和らげることができたなら、どんなにいいでしょうか。窓から差し込む夏の日差しの中をほこりが静かに舞っている清朝の一室というのが、一体どんなものかはなかなか想像できませんが、今週はできるだけ無理をせず自分をよく労わってあげることを大切にしていきたいところです。
今週のキーワード
目を閉じ頬杖をついてひとり愉しく夢路をさまよう