さそり座
念願と代償
三兄弟の例え話
今週のさそり座は、村上春樹の『アフターダーク』という小説の挿話ごとし。あるいは、必要な犠牲や代償を払っていくような星回り。
日が暮れてから夜が明けるまでの一晩の出来事を描いているこの作品の中に、次のような挿話が出てきます。少し長いですが引用してみましょう。
「三人の若い兄弟が嵐に流され、ハワイのある島にたどり着いた。高い山が中央にそびえ 立つ、美しい島。その晩、三人の夢の中に、神様が現れる。 『海岸に三つの岩があるから、その岩をそれぞれ転がして、好きなところへ行きなさい。 どこまで行くかは自由だけど、高い場所へ行くほど、世界を遠くまで見渡すことができる 』 翌朝三人は言われた通り岩を転がし、進んだ。(中略)最初に、いちばん下の弟が止まっ た。「兄さんたち、俺はもうここでいいよ。ここなら魚も取れる」。続いて、次男が山の 中腹で止まった。「兄さん、俺はもうここでいいよ。ここなら果実も豊富にある」。長男 だけが、どんどん狭く険しくなる道をほとんど飲まず食わずで進み、とうとう山のてっぺ んまで岩を押し上げた。長男は山の頂上から世界を眺めた。彼は、誰よりも遠くの世界を 見渡すことができた――が、彼がたどり着いたその場所は、荒れ果て、水も食べ物も十分に ない場所だった。だけど長男は後悔しなかった。彼は、世界を見渡すことができたから ……。」
この話から得られる教訓は、「何かを本当に知りたいと思ったら、人はそれに応じた代価 を支払わなくてはならない」ということ。
今のあなたがなろうとしているのは、三兄弟における末っ子でしょうか、次男でしょうか。それとも長男でしょうか。
現実か神様か
「ハワイにまで来て、霜をなめて、苔を食べて暮らしたいとは誰も思わないよな」「でも 長男には、世界を少しでも遠くまで見たいという好奇心があったし、それを押さえること ができなかったんだよ。そのために支払わなくちゃならないものがどんなに大きかったと してもさ」
星占いというのも、上の話の「神様」にどこか似ています。「ここまで来れば、きっとこ んな世界が体験できるよ」と教えてくれる。とても魅力的に、さまざまな比喩を用いて。
けれど、実際にそこへたどり着くには、現実世界の自分が努力や苦労を重ねていかなけれ ばなりません。
占いなんてやらなくても、人生には「神様」と出会ってしまう時がある。目の前の現実と、「神様」の話と、どちらに食指が動くか。結局は、それに尽きるのだと思います。
今週のキーワード
大事なことほど腹で決める