さそり座
物語と躍動
大いなる川を越えて
今週のさそり座は、「秋風の吹きにし日よりいつしかと我が待ち恋ひし君そ来ませる」という和歌のごとし。あるいは、ずっと待ち望んでいた一歩を踏み出していくような星回り。
万葉集に収録されているこの歌は、やっと訪れた彦星を迎える織姫の歌だが、そのまま夫を迎える妻の歌でもある。
恋愛というものは本能の産物などではなく、ヨーロッパの宮廷で生まれた作法(マナー)だが、同じように、日本の王朝人たちも七夕の星の物語に恋の作法を学んでいったのではないか。
天の川という垣根をついに越えて、相手の胸のうちへと飛び込んでは稀なる逢瀬を実現させた彼らの物語は、確かに人の心に何か強烈なものを訴えかけていくには十分だろう。
今週のあなたは、どこかで強烈に自分に訴えかけてくるものに触発されて、後戻りできない一歩を踏み出していくことになるかもしれません。
滑稽と颯爽のはざま
中世のヴェネチアを舞台にした『抜け目ない未亡人』という戯曲があります。
あらすじは、財産家と結婚した後、夫と死別した若き未亡人が再婚でもう一花咲かせようと奮闘するというもの。
フランス、イギリス、イタリア、スペインの男達を見並べて、各国の女性たちに化けてこなをかけ、誰が一番誠実な男かを試そうとするのだ。
その様はさながら、鳴かないホトトギスを前に、殺すか、待つか、鳴かせてみせるかを案じる戦国大名でもある。要は、初めからいちゃもんをつけるつもりで男達に対しているのだ。
どこか未亡人だけが力み返っているような滑稽さと、女としての意地を貫こうとするいじらしさとが混じり合って、何とも言えないアンビバレントな感情が生まれてくるお話なのですが、不思議なのは、どこかそんな未亡人に颯爽たる勢いのようなものが感じられてくるところ。
それは、従来の花のように大事にされる“べき”女性像をかなぐり捨てて、自分の生き残りへときっぱりと邁進しているからかもしれません。
今週のあなたもまた、滑稽を通り越したところにある颯爽へと至れるかということが、ひとつのテーマとなってくるでしょう。
今週のキーワード
『抜け目ない未亡人』