いて座
死と敗北に寄せて
いろいろなことをなかったことにしがちな世の中で
今週のいて座は、『悼む人』という小説の主人公のごとし。あるいは、決して軽んじてはいけない営みや存在に、改めて心を寄せていこうとするような星回り。
天童荒太の長編小説『悼む人』には、元医療機器メーカーの営業職で、今はニュースや新聞で知った事件や事故の現場を訪れては、そこで犠牲者を悼む旅をしている主人公が、次のように語っている箇所があります。
いわく、自分を「<悼む>人にしたものは、この世にあふれる、死者を忘れ去っていくことへの罪悪感」であり、「いいのか、それでいいのかと、突き上げるような痛み」であったのだと。
そう、「いたむ(悼む)」とは、もともと肉や野菜や果物などが悪くなったり、腐ったりしたときに使う「傷む」と同じで、何らかの原因があって「悲しんで、心を痛める」ことを言い、漢字の「悼」は「心」と「卓(抜け出る)」から成り、まるで心が抜け落ちたかのような悲しみを表しているのだそう。
現代社会では「いたましい」心持ちや、そうした時間はできるだけ短く、少ない方がいいと、もっぱら少しでもポジティブにすることや、気分転換が推奨されやすい傾向にありますし、それは何かと慌ただしい年末年始などには顕著に感じられるように思います。
しかし、「悼む」という行為は、痛ましく思うところからさらにその原因となった相手を「いたわしく」感じて大切にする・気遣うという「労わる」ところへと発展していくための出発点でもあり、ただ単純になくしてしまえば、それは人間性の大切な一部分を失うことに等しいのではないでしょうか。
12月20日にいて座から数えて「心の基盤」を意味する4番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、折にふれて物思い、「悼む」という感覚を思い出すこともまた、人の生きる道なのだと、改めて知っていきたいところです。
エミリーの「墓の科学」
内藤里永子さんが翻訳・編集したエミリー・ディキンソン詩集は7部構成になっていて、その最後の章には「「希望」は背中に翼をつけている―癒しのことば」というタイトルが付けられているのですが、その中の「ひとたび救われた者は」という詩の中に「墓の科学」という言葉が出てきます。
ひとたび救われた者は
自ら身につけた枝で
救う使命を帯びるのです
これは 墓の科学
彼女の人生は「死」に彩られていました。理不尽かつ横暴な仕方で、つぎつぎと大切な人の命を奪い去られていく宿命にあり、みずからも正気を失うほどの苦悩を経ました。ただ、そうした「死」の意識がつねに寄り添っていたことで、彼女は生の意味を深く探ることができたのだと思います。先の詩は次のように続きます。
他の誰も知らない
わたしは知っている
自ら崩壊に耐えたのだから
資格を得てしまった
敗北を初めて知り
敗北が死だと取り違える人々の
絶望を しだいに和らげて
新生に順応するよう導くのです
特に最後の下りなどは、今週のいて座にぴったりの言葉なのではないかと思います。
いて座の今週のキーワード
自分自身を新生に順応するよう導く