いて座
だんだん真摯になっていく
順調に滅びつつあるという感覚
今週のいて座は、『舌少し曲り目出度し老の春』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、滅びつつある現実をこそ祝福していこうとするような星回り。
作者が76歳のときの作。46歳のときに軽い脳溢血を患ってからは、禁酒してもっぱら節制してきたのだそう。
ふつう、老いて舌が少しもつれがちになったと思えば、どうしても気持ちが落ち込んでしまったり、無意識のうちに誤魔化そうとするものですが、ここではむしろ、途中で死にかけた自分であったのに、よくぞここまで生きてこれたものだと、自分で自分をほめたたえ、それを句にして詠んでしまっている訳です。
作者は60歳の時に「私は滅びるものは滅びるに任す、そんな考えが強いです。(略)段々人間というものは滅びてゆく、あとかたもなくなる、それでいいんだ」と述べていましたが、あるいは掲句も、よしよし順調に滅びつつあるぞ、この調子だ、という思いで詠まれていたのではないでしょうか。
同時作には「大勢の子育て来し雑煮かな」「其他の事皆目知らず老の春」などがありますが、この時すでに作者は死ぬまでにやり残した最後の仕事としての『虚子自伝』の執筆を意識していたのかも知れません。
1月7日にいて座から数えて「息継ぎ」を意味する8番目のかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、年を追うごとに失っていきつつあるものと、その代わりに得てきたものとを、改めて整理してみるといいでしょう。
永遠の印象を与えるもの
水をやる鉢植えであれ、大事にしている関係性であれ、自分自身であれ、心の底から貴重だと思えるものが、同時にひどく傷つきやすいものであることは本当にいいことなのです。
傷つき、失われゆくということこそが、生存していることの一番のしるしであり、私たちは悲しみの瞬間におけるほど、自分と一体になることもないからです。悲しみは確かに私たちから世界を遠ざけ、外的なものとしますが、そうなればなるほど、私たちはますますおのれ自身と一体化し、訪れる運命に真摯になっていける。そして、そうした過程が深まっていくためには、人は幸福の中で注意散漫であるよりも、静謐で孤独である必要があるのです。
その意味で、今週のいて座は、この世という仮の宿には、行くも帰るもひとりなのだということを改めて感じていくでしょう。
しかし、それはただ寂しい現実としてそうなのではなく、永遠なるものを受けとっていくための契機であり、今のあなたにはそうした感覚を思い出すチャンスが訪れているのだと知ってください。
いて座の今週のキーワード
この世に生きて在ることの一番のしるし