うお座
素直と体感
余計なものを送りだす
今週のうお座は、「組み合いし棺のをとこや春の雨」(平出隆)という句のごとし。あるいは、こまごまとした記憶はどこかへ霧散し、体感だけが残っていくような星回り。
告別式での句。春の雨が降っている中、棺に横たわっている「をとこ」を前に思い出すことは人によってさまざまだろうが、長い付き合いにも関わらずどういう訳か走馬灯のような総集編ではなく、些細な一場面のことばかり頭に浮かんできて離れないということは、筆者にも経験がある。
人間は、そんなに器用にはできていないのだ。作者の場合は、生前の故人と酒の席かなにかで取っ組み合いをした場面でも浮かんできたのだろう。それが生きていた死者の体感をもっとも生々しく呼び出すことのできる触媒だったということだ。
堅苦しくなりがちな追悼のセレモニーにあたって、率直で、正直であるがゆえに、春の雨のようにどこか色気のある句となっている。
いま春を迎え、過ぎ去った季節の記憶は棺に横たわる死体に等しい。今週のあなたもまた、みずからの記憶の中からもっとも生々しい体感のみを呼び出して、残りはきれいさっぱりと黄泉の世界へ送りだしてやるといい。
アインシュタインと西行の素直さ
考えてみれば、アインシュタインは神という言葉を使う代わりに、相対性原理の中で「宇宙的宗教感情」という表現を度々使っていました。そうとしか言いようのない感情が胸を突いたとき、自分は宇宙に向かって頭を下げるのだと彼は言うのです。
これはどこか、西行が伊勢神宮にお参りした時のことを詠んだ、「何事のおはしますをば しらねども かたじけなさに 涙こぼるる」という歌に通じるものがあります。
涙がこぼれる、自然と頭が下がる。
そういう風にして、身体がサインを送ってくれているということなのでしょう。感じたら、手を伸ばすこと。決して急がずに、けれどモタモタすることなく。
今週は特に、「考えさせられる」のではなく、「おのずと浮かんでくる」という感覚が大切なのです。できるだけそういった感覚や体感に集中していきましょう。アインシュタインや西行のように、自分に素直でいられれば決して難しいことではないはずです。
今週のキーワード
宇宙に向かうと浮かんでくる