うお座
右往左往する勇気
人生の終え方
今週のうお座は、ある老人の脱走劇のごとし。あるいは、人生を乗客席からではなく、操縦席から臨んでいけるかが少なからず問われていくような星回り。
人間は限られた時間しか生きられません。そのこと自体は誰もが知っていることですが、実際には貴重な時間を自分にとって特別な意味を持つことに使おうという気概は、歳を追うごとにどんどん弱くなっていくように思います。中年を過ぎて老年になってしまえばもう人生の方向性や価値はほとんど決まってしまうのだと考える人も多いのではないでしょうか。さながら、自分は人生のパイロットではなく、乗客のようだと。
しかし、映画化もされたスウェーデンの作家ヨナス・ヨナソンの小説『窓から逃げた100歳老人』の主人公であるアランという老人は、そうではありませんでした。
彼はつねにいい加減に、確信より好奇心にしたがって生きてきたのですが、どういう訳か20世紀の重大事件の多くで重要な役割を果たしてきました。それで、老人ホームで行われる彼の100歳の誕生日パーティーには、市長や新聞記者などたくさんの来賓が訪れる予定だったのですが、前日になってふと彼はこんな風に思います。
老人ホームが自分の終の棲家ではない。“どこか別の場所”で死のう。そう決めたのだ、と。幸いにも、彼はホームを脱走してすぐに大金の詰まったスーツケースを手に入れ、彼があまり品行方正な人間ではなかったことも相まって、驚くべき展開をしていきます。
それでも彼は、そうした最中で1905年に誕生してからの人生をおもしろおかしく振り返りながら現在の冒険を進行させていき、101歳になった頃にはずっと若い女性(85歳)とともにバリで新たな人生を踏み出すにいたるのです。
この小説のメッセージははっきりしています。もし人生の操縦席に座るチャンスがあると感じたときは、迷わずパイロットになりきること。
そして、10月11日にうお座から数えて「理想の社会生活」を意味する11番目のやぎ座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、アランほど老齢ではなくても、迷った時は自分の“終の棲家”はどこにしたいのか、ということを考えてみるといいかも知れません。
平凡に戻れる場所を
しかしパリであれ、近所の飲み屋であれ、昔よく訪れた思い出の地であれ、立ち返るべき場所が現実世界の中に、損なわれることなくそこにあるということは、ずいぶんしあわせなことだと思うことがあります。
もちろん時の経過とともに様変わりする箇所もあるでしょうけれど、ひとりでは抱えきれないさびしさや不安を口にだしたとき、そうだね、さびしいね、と明確な言葉ではない形で返してくれる何かがあるだけで救われる。それが人間というものではないでしょうか。
今週のうお座の人たちももまた、そんな人間らしさをここでもう一度取り戻しておこうという地点にあるのかも知れません。
歩んできた道というものが人によって必ず異なるように、なんだか理由なくやりきれない時は、おおいに右往左往すればいい。そんな風に思えてきたとき、人はいい意味での「平凡さ」を手に入れるのではないでしょうか。
今週のキーワード
「身を固める」必要などない