うお座
外へ抜ける細く長い道
七・七・八!
今週のうお座は、『きよお!と喚いてこの汽車はゆく新緑の夜中』(金子兜太)という句のごとし。あるいは、これ以上ないほど大胆に羽目を外していこうとするような星回り。
五七五から盛大にはみ出しまくっている一句。どこか『ワイルドスピード』や『頭文字D』に出てくる爆走する走り屋みたいなイメージです。とにかく「きよお!」がすごい。
そして同じくらいすごいのが、「新緑の夜中」という締め方です。ここは本来「下五」に相当しますから、当然五音におさめたいところですが、それまでの七音+七音にならってきれいに七音を重ねる訳でもなく、さらに一字足して八音になっています。
しかも、意味的には「緑の夜」や「新緑夜」(いずれも五音)でもいい訳ですから、どうしても「新緑の夜中」でなければならないという必然性もありません。が、その最後の暴れっぷりこそが掲句の迫力を本物にしている。
意味的にも、音的にも、あんまりおさまりのいい感じに仕上げすぎたり、耳に心地いいリズムにまとめすぎると、句の力そのものが削がれてしまうんです。これはよくよく考えれば、句を詠むとか、何かを書いて人に見てもらおうとする時点でそれはある種のノイズであり、書かれたものは体から抜け出てそこらじゅうを歩き回っている生霊(いきすだま)みたいなものなのだと考えれば、よく実感されることなのではないでしょうか。
5月23日にうお座から数えて「世間との折り合い」を意味する10番目のいて座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、どうせ目立つなら徹底的に、やりすぎなくらいに目立ってしまおう、というくらいのつもりで過ごしていくべし。
人間クリスの試み
ここで思い出されるのが、実話を元にしたアメリカ映画『イントゥ・ザ・ワイルド』です。主人公の青年クリス・マッカンドレスは、都会の裕福な家庭で育ったエリートでしたが、大学卒業を期に、身分や名前さえ捨てて北(アラスカ)へと旅立つというストーリー。
彼は旅の中でさまざまな出会いを通しその旅を楽しみつつ、最後はアラスカの自然の最中で衰弱死してしまうのですが、幸いなことに、そうした最後の日々において彼が何を考えていたのかは、残された日記を通して窺い知ることができます。中でも次の言葉は、彼なりの旅の総括だったのでしょう。
人生において必要なのは、実際の強さより、強いと感じる心だ。
一度は自分を試すこと
一度は太古の人間のような環境に身を置くこと
自分の頭と手しか頼れない
過酷な状況に一人で立ち向かうこと
今週のうお座もまた、そんなクリス青年の「心」がいつも以上に近しいものと感じられるのではないでしょうか。
うお座の今週のキーワード
Keep On Fighting