うお座
蝶をつかまえる
「成る」と「する」
今週のうお座は、『一粒の真珠転がる夏座敷』(原裕)という句のごとし。あるいは、ただただ真っすぐにおのれの心を磨いていこうとするような星回り。
じつに印象鮮明で、詠まれている光景自体はきわめて明瞭な骨格をもっている一句。しかし、下五の「夏座敷」という語によって、他の季節には見られないような清涼感と涼やかさとがもたらされ、そうして句にひとつの生命がやどった証しとして「一粒の真珠」がキラリと光っているかのように感じられます。
おそらく、言葉遣いも平易で難しいところはなく、特別なテクニックや作為の痕跡も感じられないだけに、余計に作者のうちに光るものがストレートに伝わってくるのでしょう。
俳聖として仰がれた芭蕉は「句作りに成るとすると有り。内をつねに勤めてものに応ずれば、その心の色、句と成る。内を勤めざるものはならざる故に私意にかけてする也」(服部土芳、『三冊子』)と弟子たちに言い残したそうですが、掲句はまさに「成った」句の好例と言えるように思います。
すなわち、作者は日ごろから物事のなかにキラリと光るものを真摯に探していくことで、おのずと家に勤めていた(心を磨いていた)のであって、それゆえにこそ、私的な意見や考えに左右されることなく「一粒の真珠」をありのままに捉えられたのではないか、と。
7月18日にうお座から数えて「創造性」を意味する5番目のかに座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、どうでもいい他人の評価に気を取られる代わりに、自分のこころがより一層研ぎ澄まされる瞬間を追い求めていくべし。
ちょうどいい時に気配をさとる
ただ、いくら「内に勤め」ることで「句が成る」瞬間を迎えていくことができるとしても、それには必ず相応しいタイミングというものがあります。
例えば、誰もが目を向けない方へパッと顔を向けるにしても、誰かに言われてそのまま向けるのではダメですし、「残り物に福がある」みたいなよこしまな考えを持ってあからさまに探しにいくというのも持っての他でしょう。
さながらギリシア語で「たましい」という意味ももつ「蝶(プシュケー)」をつかまえる時にも、正面から追いかけるのではなく、背中で気配をさとった瞬間に振りかえって、つまり、常識や理性に絡めとられる前につかまえるように、現実の網目からするすると逃れたところに咲く日陰の花を愛でるのにもそれなりの“コツ”があるのです。
今週のうお座もまた、人生の表舞台ではなくその裏にそっと転がっている小さなしあわせや、かすかな喜びを丁寧に拾い上げていくことがテーマとなっていくでしょう。
うお座の今週のキーワード
うしろの正面だーれだ?