うお座
豊かさを招くために
YES or YES
今週のうお座は、「稲妻のゆたかなる夜も寝(ぬ)べきころ」(中村汀女)という句のごとし。あるいは、異なる豊かさを天秤にかけていくような星回り。
俳句の世界では、「雷」は夏の季語で、「稲妻」は秋の季語となります。前者が積乱雲の恐るべき放電現象を連想させるのに対し、後者はどこか遠く空で走るかすかな光のラインやその音連れと結びついているのです。
長らく続いた農耕社会では、稲の花はこの「稲妻」によって受精し、米を稔らせることができると考えられ、「稲妻」は大切にすべきありがたい自然現象と捉えられていました。
「稲妻のゆたかなる夜」という言い方も、稲妻がたくさん閃いている夜を愉しんでいるのであり、家の中で遠くに感じつつも、睡眠時間を惜しんでさえ慈しむべきものとして向き合っているのでしょう。
ただ一方で、明日の生活を全うするためにも「眠らなければならない」という思いがあり、遠くの未来の豊かさと、直近の明日の安らかさとのあいだで天秤にかけているのだとも言えます。そこには切迫した心細さとは対極の、作者独特のおおらかな柔らかさの感得があります。
8月30日にうお座から数えて「心の豊かさの基盤」を意味する4番目のふたご座で形成される下弦の月から始まる今週のあなたもまた、そうした無理のないエロティシズムに自分を浸していきたいところです。
宴の供物
農耕社会における稲妻信仰とはまた一味ちがった話ですが、紀元前2世紀にイタリア北部に侵入したゲルマン民族のキンブリ族は、ローマ皇帝アウグストゥスに二十個もの大なべを献上したといいます。というのも、キンブリ族にとって‟なべ”は特別な道具であり、戦いで捕えた相手を、巫女の先導でなべのところへ連れてきては、その喉をナイフでかき切って、血をなべに流し、その流れ方で占いをしたのだそう。
彼らはなんらかの祭儀が行われる場合、集まって宴を催すのですが、宴席の中央には必ず大きななべが置かれ、沸騰する湯の中に獲物が投げ込まれ、その肉が踊るように煮えていくさまを、みなでじっと見つめていたのだと言います。彼らは肉が今にもなべから躍り出てくるように思えたに違いないでしょう。
「なべから踊り出る」ということは、「なにか良い変化が起こって、寿命が延びる(若返る)」のと同意のことと考えられていたのです。その意味で、なべは変容をもたらすものであり、また「死と再生」をその本質に宿す豊かさを象徴するアイテムでもありました。
今週のうお座もまた、そうしたある種の「よみがえり」に備えていくことがテーマとなっていくでしょう。
うお座の今週のキーワード
残酷さと大らかさの表裏一体