うお座
新たな自然の形成
共生的諦念
今週のうお座は、「悦ばしい腐敗、土になりうる人間」のごとし。あるいは、みずからの内に巣食う人間中心主義のエゴイズムを破壊していこうとしていくような星回り。
冒頭の文言は、奈良の里山で米と大豆と鶏卵を自給しながら他の生物と格闘しながら共生している東千茅さんの初の著書『人類堆肥化計画』の出版記念トークショーの副題であり、対談相手の吉村萬壱さんの言葉を借りれば、「堆肥化とは異種とズブズブの関係になること」を指すのだそうです。
著書によれば、人間が堆肥になるための3つの要素として、「①扉を開く、②寝転ぶ、③甘やかす 」が挙げられ、これはすなわち①感性の解放、②人間が余計なことをしないことで異種の生物がしてくれる、③そして進んで異種に利用される、ということらしいのですが、そこには一介の生きものとなり果てて、比喩などではなく文字通り地べたを這いつくばり、どうしようもなく生きて、どうしようもなく死ぬという、東さんの腹の据わった覚悟のようなものが通奏低音のように流れているのが感じられるはず。
東さんによれば「共生とは、一般にこの語から想起されるような、相手を思いやる仲睦まじい平和的な関係ではなく、それぞれが自分勝手に生きようとして遭遇し、場当たり的に生じた相互依存関係」であり、「里山は、歪(いびつ)で禍々しい不定形の怪物」なのです。そして、「食いものにされているわたしは里山の胃袋の中にいる」。
13日に自分自身の星座であるうお座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、堆肥となってズブズブに生きるべき「里山」のなかにみずからを見つけていくことがテーマとなっていくでしょう。
宮沢賢治の指し示す「未来圏」
恐らく、東さんが考えていたことと同じよう考えは、農学校の教師をしていた宮沢賢治もまたたどり着いていたはずですが、「生徒諸君に寄せる」という文章を読むとその一端が伺い知れるように思います。
諸君はこの時代に強ひられ率ゐられて
奴隷のやうに忍従することを欲するか
(中略)
宙宇は絶えずわれらによって変化する
誰が誰よりどうだとか/誰の仕事がどうしたとか
そんなことを言ってゐるひまがあるか新たな詩人よ
雲から光から嵐から
透明なエネルギーを得て
人と地球によるべき形を暗示せよ
(中略)
潮汐や風……あらゆる自然の力を用ゐ尽すことから一足進んで
諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬああ諸君はいま
この颯爽たる諸君の未来圏から吹いて来る
透明な風を感じないのか
ニューノーマルな社会で地に足の着いたビジョンを模索している今の私たちにとって、東さんの活動やその言葉はまさに「未来圏から吹いてくる透明な風」に他なりません。もちろん、その風に応えるか否かはあなた次第であり、どこまでみずからの生のどうしようもなさを痛感できるかどうかにかかっているのではないでしょうか。
今週のキーワード
「わたしは里山の胃袋の中にいる」