うお座
不吉が吉に転じていく
真夜中の心象風景
今週のうお座は、「骨冷える日々はこころに本好きの烏を飼おう次の春まで」(堂園昌彦)という歌のごとし。あるいは、誰かに重要な任務を任せてみようとするような星回り。
烏(カラス)はクチバシも足も目の玉もすべて真っ黒けで、あまり気持ちのいいとは言えない鳴き声で鳴くことから、洋の東西を問わず不吉で縁起の悪い鳥と見なされてきましたが、神話伝承となるとこれが一変します。
神武天皇の東征の際には、3本足の八咫(やた)のカラスが先導役を務め、古代中国では月にはうさぎが棲み、太陽にはカラスが棲むと信じられ、ノアの方舟(はこぶね)からまず放たれたのは鳩ではなくカラスでした。もちろんオリーブの葉をくわえて戻ってきたのは鳩であり、栄光の座を譲る形にはなりましたが、これは吉と不吉は紙一重ということの暗示なのかもしれません。
掲歌には、「骨冷える日々」に「本好きの烏(カラス)」が登場します。ギリシャではカラスは予言の能力があるとして太陽神アポロンの聖鳥でもありましたが、これも今ある不運を幸運に変えるためのある種のおまじないのようなものでしょう。
こころの中で飼い始めた「カラス」はそのうち本で学んだ言葉であなたに語りかけ、やがてあなたの運命を指し示すまでになるはず。
8日にうお座から数えて「他者」を意味する7番目のおとめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、この歌のとおりに心のなかにカラスを飼うもよし、はたまた、カラスの役にピッタリの誰かに心のなかでそっとお願いしてみるのもいいでしょう。
私たちは死者の群れの中で生きている
例えば、ソ連の文学者バフチンは、文芸作品を解釈することについて、次のようなことを言っています。
「芸術作品はその根をはるか遠くまでに広げているものなのであり、それが創作された時代とは長い複雑な熟成過程をへて結実した果実の取り入れの問題にすぎないのである。作品を同時代と先行する時代の状況のみから理解し、説明しようとすれば、作品のもつ意味論的深さを洞察することはできなくなってしまう」
これは裏を返せば、現在にしか属さないすべての作品は現在とともに脆くも滅びていくのだということでもあります。
その意味で、カラスというのは壮大な過去をさかのぼって羽ばたいていける想像力の原動力なのだとも言えるかも知れません。
今週のうお座は願わくば、遡れる限りの歴史のなかで、みずからの今後の運命の鍵を握っているように思える人物や出来事との絆を少しでも感じとっていきたいところです。
今週のキーワード
祖霊の依り代としてのカラス